第7章 紫陽花の面影
『あさひ!』 『あさひ様!』
信長と咲は同時に声をあげ、あさひのもとに駆け寄ろうとした。
その時、秀吉が信長を呼ぶ。
『御館様、。畏れながら…。』
『なんだ、秀吉。』
『咲に、任せて頂きたいのです。』
『なっ、なぜだ?』
『あさひの中には今、信長様への想いと同じくらい、母上への想いがあります。』
『紫陽花か…』
全てを理解し、信長は立ち止まる。
咲も、一度立ち止まり信長の方に膝間付いた。
信長がゆっくり咲に頷くと、咲は立ち上がりあさひに駆け寄った。
『あさひのあの様な声、初めてだな。胸が苦しくなるようだった。』
『光秀様、本当にそうですね。あさひ様、御辛いでしょう。』
秀吉から話を聞いていた、光秀と三成も事のなり行きを見つめていた。
※
『あさひ様、雨に濡れております。中へ。』
「はっ、ふっ。うぇ。咲…」
『はい、ここに。』
「おか、お母さんが。」
『はい、おりましたか?』
「う、っん。待って、るからって。ゆ、夢で。」
『待ってる、でございましたか。』
「私は…。おか、お母さん…」
咲は、ちらっと振り返る。
信長を含め、それぞれがあさひの泣きながら話す言葉を聞き漏らさずに聞いていた。
『あさひ様。お風邪を召します。さぁ、…!』
咲が、あさひの肩に触れた。
ふっと振り返ったあさひは、咲の肩越しに母の面影を見た。そしてまた、あの言葉が聞こえた気がした。
待ってるから
どん!
あさひは、咲に抱きつくと、滅多にない泣き叫ぶ声で母を呼んだ。
「おか、おかぁ、さん! お母さん、おか、、さん。
ごめ、ごめんなさい。
会いた…、い。
お母さん。会いたいよ。
お母さん、お母さん。
ごめん、ごめんなさい。
お母さん、私、…、私は… はっ。」
あさひは、会いたいと言ってしまったことに後悔をした。
そしてその瞬間、廊下から降りた信長と視線があった。
信長の悲しい瞳が、あさひを貫いた。
「ごめんなさい、。
ごめ、ごめんなさい。
おか、お母さん。… …、のぶ、なが、さま。」
崩れ落ちるように、あさひは咲の腕の中で意識を手放した。