第7章 紫陽花の面影
ほら、あさひ。
仕事、遅れるわよ! お弁当は?
持ったよ、遅れるから行くね!
はいはい、いってらっしゃい。
※
また咲いたんだね、紫陽花。
お母さん、紫陽花好きだね。
そうねぇ、この可憐な感じが好きなんだよね。
じゃあ、母の日はカーネーションじゃなく紫陽花にする?
※
ふっと、あさひは目が覚めた。
視線の先は天守の天井。
昨晩も隣で眠る信長に愛された場所。
頬には涙が伝っていた。
『目が覚めたのか?』
「あ、はい。大丈夫です。」
『泣いているのか?』
「…懐かしい夢を見ました。」
『夢?』
「…母の、夢でした。」
『…そうか。 会いたいか。』
「えっ。…会いたくないと言えば嘘になります。
でも、私は信長様と…」
添い遂げるためにここに来たから、と言おうとした矢先、信長はあさひの口を塞いだ。
『俺は、貴様しか要らぬ。返すことはできぬ。』
「はい。わかっています。」
『母の分まで愛し幸せにすると誓う。』
「はい。」
『眠れ。抱き締めていてやる。』
「はい。」
目を瞑るあさひの目尻から、また一筋涙が頬をつたうのを信長は確認し、あさひの頬に口付けをした。
※
あさひ、今日は雨みたいよ!
朝のニュースでやってたわ!
ちゃんと傘もった?
…お母さん?
? なに? どうしたの?
お母さん!私、私、帰ってきたの?
帰ってきた? 何言ってるのよ?
昨日も今朝も普通に一緒にいたでしょ?
なに? 疲れてるの?風邪?
じゃあ、夢だったの?
だって私、信長様と…!
信長?…、夢でも見たんじゃない?
早く帰ってきて休みなさい。
ほら、時間無いわよ!
あ、うん。いってきます…
って、わぁ、すごい雨!
だから言ったじゃない!
ほら、傘!
…なんだかわらかないけど、疲れてるのよ。
気をつけて。晩御飯作って待ってるから。
待ってるから。