第7章 紫陽花の面影
『政宗や家康が国に帰ったことでの静けさと、その紫陽花が故郷や母上を思い出させた、かもしれないな。』
『秀吉様。お聞きしたいことがございます。』
『ん?なんだ。』
『あさひ様は、信長様との祝言を控えてのお里帰りはなさらないのですか?』
あさひが、500年後の世から突然やって来たことは信長と武将達だけの秘密であった。
城の誰もが
あさひがなぜ故郷の話をしないのか、
里帰りはしないのか、
一体何処で生まれ、育ったのか。
疑問に思いながら、知ることが出来なかった。
『…あさひは里帰りはしない。
咲。お前だから話すが…
あいつの故郷(くに)は、…もう無いんだ。』
(この世には。)
秀吉は、そう言うと紫陽花の咲く中庭を見つめた。
咲は、なにも言わずほろりと涙を流していた。
『で、では…あさひ様の御母上様は?』
震えた声で、咲は秀吉に聞いた。
『ご健在だとは思う。ただ、…もう会うことはできないんだ。あいつは、きっと紫陽花に母上の面影をのせているんだな。』
『そ、そんな…。あさひ様はいつもお元気で。
そんな事、露にも感じさせないお姿で。』
『それが、あさひなんだろうな。
咲、側にいてやってくれ、な。信長様や俺達が政務で忙しい時はあいつも輪をかけて心細くなるだろう。
埋められない寂しさだが、少しでも俺達があいつを暖めてやりたいんだ。』
秀吉の言葉に、咲は頷くしかなかった。
そして、どうして一人の突然現れた姫に、信長も武将達も家族のように甘く接するのかが、解ったような気がした。
咲は、秀吉への報告が終わりあさひの部屋へ戻ろうとしていた。
廊下からは、やはり今日も紫陽花の前で佇むあさひが見えた。
しかし、咲は声を掛けられず、ただその姿を見守ることしか出来なかった。