第1章 二人の距離
『ったく、どこいったんだよ!』
『だいたい城下でしょ。』
『信長様も、一緒に探すなんて珍しい。やはりあさひは面白いな。』
『光秀さんも探してくださいよ!』
『御舘様、お待ちください!』
『秀吉さん、本当に大変だなぁ。俺には出来ない。』
口々にそう言いながら、武将達はあさひを探す。
反物屋、甘味屋…
そうやって市の方へ向かった時だった。
『暴れ馬だぁ!』
叫び声が聞こえる。
『ちっ、誰の馬だよ。止めるか?』
『面倒…』
『でも、市に影響が出ますね。』
『行くか、仕方ねぇ!』
政宗が両拳を合わせる。
すると突然、少し先を歩いていた信長が叫び出した。
『あさひ!』
『え、あさひ?どこ?』
信長は目も触れず馬に向かって走り出す。
『御舘様!お待ちください!』
秀吉が血相を変えて追いかける。
家康、政宗、光秀、三成が、走る方向に目を凝らす。
すると、あさひが馬に向かって駆け出す子供の側に走り出しているのが見えた。
『ったく、あの馬鹿!』
『なんでこう、すぐ巻き込まれるわけ?』
『仲直り出来そうだな。』
『皆様、行きましょう!』
『言われなくてもわかってる!』
四人は馬に向かって走り出した。
※※※※※
(間に合わない!)
子供を抱えたあさひが、走り出そうとした時だった。馬の蹄の音が間近に聞こえ砂ぼこりが舞う。
視界が遮られ身動きがとれない。
『母さま!』
「ちょ、暴れたら危ないから捕まって!」
馬の影が近付く。
(もうダメ!)
ズザザザッ!
あさひは、背中ごと誰かに抱き締めながら転がった。
(え? この腕…)
きっといるはずのない、あの人の声がする。
熱を帯びた覇気のある愛しい声が。
『お前達、馬を止めろ!』
『御意!』
砂煙がゆっくりと消えていく。
目の前には、自分が仕立てた羽織をなびかせた、信長が立っていた。
「のぶ、なが、さま。」
『怪我は?』
「ありません。」
『子は?』
「大丈夫です。ねっ、大丈夫よね。」
『うん。』
子供は、そう言うと母親に向かって走りだし抱きついていた。
『御舘様!ご無事ですか?』
秀吉が慌てて駆け寄る。
三成、家康、政宗が馬を抑え、落ち着かせ、光秀が手綱を引く。