第6章 安土城の夏の過ごし方
『案外と冷たいな。』
「ねっ、気持ちいいでしょ?」
『もう一度だ。』
「ふふっ。せーのっ!」
バシャッ!
『信長様、べちゃべちゃ!』
あさひが楽しそうに声をかけると、信長も微笑む。
「じゃあ、次は… この柄杓で水を掛け合って先に桶の水がなくなった方の勝ちってことでやりましょう。」
『ほう、勝負か。』
「はい、ほら!」パシャ!
『あさひ!貴様、待て!』パシャ!
「待ちませんよ!」
パシャ!
「あ、どこにかけてるんですか?」
『尻だ。』パシャ!
「もう、なんで? やだぁ!」パシャ!
『貴様はなぜ顔に向ける?』
「だって、目を瞑る信長様が可愛いから!」パシャ!
『阿呆が!』パシャ!
「あ、照れてる!」バシャッ!
「きゃー、ずるい!桶ごとかけたら柄杓の意味無いじゃないですか!」
あさひの笑い声と優しさを含む信長の声が中庭に響く。
そして、それを柱の陰から覗く光秀は二人の姿を見て驚き笑い始めた。
(だから、秀吉を出したのか。信長様もあさひに甘いな。あの様な肌を出した格好で、あさひは襦袢が透けるのではないか?
政務も溜まっている。そろそろ秀吉が帰ってくるぞ?)
「あぁ、楽しい。でも、信長様。水が無くなりましたよ?」
『では、終いか?』
「うーん、あとちょっとは?」
『そのくらいにしておかねば秀吉が帰ってくるぞ?』
「え、…光秀さん?」
髪の毛から滴る水滴と、うなじから流れる水。
少し肌に吸い付いた甚平は、あさひの体の輪郭を露にしていた。
「いつからいたんですか?」
『初めてすぐだな。』
「え、信長様知ってたんですか?」
『光秀の気配に気づかないはずがないだろう。』
『あさひ、その着物はお前が仕立てたのか?』
「はい、信長様と色味違いなんです。ね、信長様!
…あれ?」
『信長様なら井戸だ。』
「え、あ、水汲み!」
『そんな肌を出した格好で、秀吉と咲に叱られるな。』
「え、あ、やっぱり?」
『あぁ。』
「でも、信長様が逃げるって言ってました!」
『ふっ、うまく逃げ切れたらいいがな。』
あさひが光秀と話している背後から、桶を持つ信長が近寄る。
そして、城門には早々と見回りを終えた秀吉が戻ってきていた。