第6章 安土城の夏の過ごし方
そして、その視線を受けて微笑むあさひもまた、足早に広間から立ち去っていく。
秀吉は城下の見回りの命を急に受け、準備とこの後の政務の調整を三成と始めた。
光秀だけが、信長とあさひのただならぬ雰囲気を察し、何か企んでいるだろう、これから面白い事が始まるだろう、と考えながら広間を出ていった。
※※※
「秀吉さん、行きましたか?」
『あぁ、今城門にいる。』
信長は天守の板張りから、信頼する右腕の行く道を眺めていた。すでにあさひの仕立てた甚平に着替えやる気満々である。
あさひは、屏風に隠れて着替え始めていた。
『着替えたか?』
「はい。出来ましたよ!」
信長が振り返ると、ひょっこり屏風から顔を出し微笑むあさひが見えた。
「どうですか?」
桃色の紫陽花柄の甚平を羽織り、履き物は信長とは違い膝辺りで裾がひらひらとしている。
『短いな。』
「スカートって言うんです。」
見慣れない姿に鼓動が早くなる信長は、一呼吸起くと、ちゅっとあさひの頬に口付けた。
『よし、行ったな。始めるか!』
「はい!」
二人は手をつなぎ天守を降りた。
井戸に続く中庭は、軍議の後の昼下がりで誰もいない。
二人は桶を集め、水をくむ。
信長は桶二つ、あさひは一つを中庭にせっせと運んだ。
そして、あさひは柄杓を二つ見つけ、一緒に運んでいた。
色味違いの揃い柄の甚平を着た二人の明るい会話だけが中庭に響いていた。
そして、その声と気配に何かが始まると察した光秀が自室から動き出す。
『このくらいか?』
「沢山運びましたね!」
『では、これからどうやる?』
「決まりはないですけど…、じゃあまず思い切り掛け合いますか?」
『貴様からだ。』
にやりと信長が笑うと、桶を片手にもった。
「せーの、って言ったらですよ?」
『あぁ、わかっている。』
「いきますよ? せーのっ!」
バシャッ!
「きゃー、冷たい!あははっ!」
『もう一杯だ。』
「えっ!」
バシャッ!
「わぁーっ!冷たいけど、気持ちいい!
次は信長様ですよ!」
『ほう、思い切りやるといい。』
「はい!行きますよー、せーのっ!」
バシャッ!