第6章 安土城の夏の過ごし方
「一緒に水掛けしませんか? 私の世は、湯殿より広い場所に冷たい水を張って、中に入って遊びます。
でも、湯殿はないから、桶に水を溜めて掛け合ったりしたら、楽しいかなって。」
『ふむ。まぁ、楽しいかはわからんがやってみるか。
秀吉に見付かったら叱られるな。
軍議の後、城下の見回りに行ったのを見計らってやるか。』
「あ、秀吉さん! そうだなぁ。甚平とか、肌出すから怒るかも。水掛けも。」
『だから、秀吉を見回りに行かせるのだ。』
「ふふっ。ばれたら一緒に叱られましょうね。」
『逃げればよい。』
「あはは、そうですね。一緒に逃げれば怖くないかな。」
『あぁ、秀吉から守ってやろう。』
信長は、そう言って甚平を脱ぎ始めた。
『さぁ、来い。今宵はいつもより夜風が涼しい。沢山愛でてやる。』
信長は、あさひの手を繋ぎ褥へ向かうのだった。
あさひも、これからの甘い時間に期待をし顔を赤らめながら前を行く広い背中を見つめていた。
※※※※※
それから1日で、自分の甚平を仕立てたあさひは、翌日の軍議の後に信長の側により完成したことを報告した。
『出来たか。』
「はい!」
『…今日、これからやるか?』
「え、これから?」
『今日も暑い。天気も良い。そして、貴様の着ている姿を見たい。』
「…うん。やりますか? じゃあ、部屋に取りに行きます。」
二人はにやりと笑い合う。
『秀吉!』
上座から威厳のある声が響いた。
広間から自室に戻ろうとした秀吉が、驚いて振り向いた。
『はっ。何か?』
『城下の賑わいはどうだ?』
『は? 城下ですか?』
急に振られた城下の話題に、秀吉だけでなく、光秀や三成も驚きを隠せず目を丸くした。
『時折見回り、不穏な輩がいないか、商売はきちんと出来ているか確認せねば、と日々思っている。』
『はっ、さすが御館様でございます。』
『して、秀吉。急だがこれから城下の見回りに行って貰いたい。』
『え、は?これからですか?』
『あぁ、気になってしまってな。頼めるか?』
『あ、は、はい。御館様の命であれば…。
承知いたしました。これから参ります。』
『あぁ、すまないな。』
そう言うと、ちらりとあさひの方に視線を流し、広間から立ち去った。