第6章 安土城の夏の過ごし方
一般的な姫の外出とは違う歩き方に戸惑いながら、あさひ一行は城下に繰り出した。
「あ、お咲。なんかいい匂いするね。」
『そうですね、醤油のような。』
「ちょっと行ってみよ!」
『え、反物屋は?』
「行くよ!でも、この匂いが気になるから。」
『はぁ。』
一度茶屋で団子を食べた弥七と吉之助は、咲を振り回し始めるあさひをにこやかに見つめていた。
「お煎餅だったね。はい。」
人数分の焼きたて煎餅を買い、あさひは一人ずつに渡していく。
『ひ、あ、あさひ様!
頂けません!叱られてしまいます。』
「なんで叱られるの? 私が一緒に食べたくて買ったの。さ、食べよ。」
ぱり、もぐもぐ。
一国一城の城主の許嫁が、城下で煎餅を食べる。
考えられない光景や仕草に、もはや諦めるように咲は笑い出した。
『負けました。姫様には敵いません。』
咲もぱりっと煎餅を食べ、弥七と吉之助も笑い出した。
『こちらでしたね、あさひ様。』
弥七が反物屋を指差す。
「あ、うん! お咲は初めてだよね?」
『はい。あさひ様が張り子をされているのは聞いてますが、反物選びからされるのですね。』
「好きな反物で仕度たいからね。」
四人は反物屋に入っていった。
『おや、姫様!いらっしゃいまし。』
「ご主人、こんにちは。」
『今日は何を?』
「うーん、夏らしい反物を見に来ました。」
『では、お出ししますね。』
『あさひ様、何を仕度されるのですか?』
「うーん、信長様が暑いって言ってたから涼しげな夜着か小袖かなぁ?」
『の、信長様の物ですか?』
「うん。張り子の依頼がなければ信長様や秀吉さん、三成くん、光秀さん、政宗、家康の何かを仕立てたりしてるから。」
『はぁ… 本当にあさひ様は姫様らしくないというか…。』
「なに、それ。お咲、褒めてる?」
『え、あ!…褒めて、ます。』
「ほんとぉ?」
笑い合い、いつの間にか打ち解けた二人の声が反物屋から聞こえだし、弥七と吉之助も微笑んだ。
「暑くない服装ねぇ。…なんかあるかなぁ。浴衣くらいだよね。スカートなんてないし。」
反物屋の入り口からは、活気のある町人達が着崩した小袖で歩いている。
「スカート、? スカート! いいこと考えた!」