第6章 安土城の夏の過ごし方
『姫様、どちらに?』
自室の襖から怒った顔の女中頭の咲が見えた。
「あ、咲さん。えっと… 城下をふらっと。」
『…お咲とお呼びくださいとお願いしております!』
「あ、ごめんなさい。お、お咲。」
『城下へ行かれるのは信長様や秀吉様には?』
「言って…ません。」
『姫様!姫様は、信長様の許嫁様なのですよ!
勝手をされては危のうございます!』
(はぁ、咲さんは秀吉さんより怖い。あ、お咲だった。)
『はぁ。秀吉様には私から伝えます。そして、私と護衛の弥七と吉之助がお供致します。』
「だ、大丈夫だよ!ちょっとだから!」
『ひ、め、さ、ま?』
「あ、は…い。お咲、頼みます。」
咲は、にっこりと笑い、早足で秀吉の部屋へ向かった。
三人が共に付いていくなら、と秀吉から外出の許可が出た。慣れない供をを連れての外出だが、城下の賑わいは暑さを忘れるほどで、次第にあさひも笑顔になっていた。
『どちらに行かれますか?』
「あ、うーん。じゃあ、いつもの反物屋さんに行こうかな。」
『かしこまりました。』
咲が前に、弥七が右側、吉之助が左側に並び歩き出す。
守られているようで、息苦しい歩き方にあさひは立ち止まった。
『姫様?』
「ねぇ、ちょっと… やめない?」
『は?』
「まず、その姫様って呼び方。私は私。咲さんじゃなく、お咲って呼ぶ代わりに、お咲も私を名前で呼んで。」
『しかし…、姫様に失礼では?』
「私がそうしてほしいの。ね。お願い。」
『はぁ…』
「弥七さんと、吉之助さんもだよ。」
『え? 某達もでございますか?』
「私と過ごすなら名前で呼んで。はい、お咲から。」
『…。あさひ様。』
「はい、おっけー。次、弥七さん。」
『はぁ、。あさひ様。』
「おっけー。吉之助さん。」
『あさひ様。』
「おっけー! じゃあ、次ね。」
『まだ、何かあるのですか?』
「歩き方なんだけど、お咲は、私の隣にして。話ながら歩きたい。弥七さんと吉之助さんは私の近くで。
今みたいな歩き方だと楽しくないよ。」
『ですが、姫様は、信長様の許嫁様なのですから。』
「あ、姫様って言った。」
『…あさひ様。』
「さ、行こう。私はせっかく城下に行くなら楽しみたい。ね、ほら。行こう。」