第4章 戦場の向日葵 ー後編ー
『見えましたー!!』
矢倉から見ていた家臣が叫ぶ。
その声に全員が前を向く。
「え、どこ?」
蹄の音、塀の足音が遠くから響いてくる。
白馬に乗った信長の姿が、小さく見えた。
※※※※※
国境を越えれば見知った領内で、兵達も安心した顔になった。
『いつもより疲れましたね。』
『嵐が余計だったな。』
『あさひ、待ってますね。』
『泣くんじゃないか。』
政宗が意地悪に笑う。
『信長様、どうしたんですか?』
なにも話さない信長を家康が心配そうに声をかけた。
『ふっ。褒美は何にしようかと考えていた。』
『あさひにですか?』
『不在の間、しっかりと留守を勤めたようたからな。』
『過呼吸になるくらいね。』
『秀吉の文に、甘やかしてやってほしい、と書いてあった。』
『さすが、兄。と言いたいが、誉めてやらなきゃな。
俺は好きなだけ甘味を食べさせてやろう。』
『じゃあ、俺は…反物買ってあげる。』
『ふっ、皆、あさひには甘いな。』
『貴様もだ、光秀。』
手綱をとる四人の腕には、あさひの腕輪が煌めく。
『向日葵みたいな笑顔、早く見てぇな。』
『正室になっても、皆の笑顔でいいですよね。信長様?』
『ふっ、貴様達にとってあさひは向日葵か。』
『信長様は違うんですか?』
不思議な顔をして家康と政宗は首をかしげた。
『行く道を照らし続ける太陽だ。』
はぁ、と二人は頷く。
『なるほど。…そんな太陽が着飾ってお待ちです。』
光秀が、城門を指差す。
真っ白な桜の花の打ち掛けを着て、自分と揃いの小袖を着ている。
遠くからも、それがあさひだと誰もがわかった。
『どこぞの姫か。ありゃ。』
『あさひらしくない。』
『化けたな。』
『では、化けの皮を剥がして、いつものあやつに戻してらねばな。』
『え?』
まっすぐの道の先に城門が見える。
信長は、ひらりと馬から降りた。
一歩うしろで政宗、家康、光秀と家臣達が止まる。
すると、信長はあさひに向かって手を広げた。
『さぁ、姫はどうするか。見物だな。』
光秀が目を細目笑った。