第4章 戦場の向日葵 ー後編ー
湯浴を終え、支度をするあさひは手伝っている女中に呟いた。
『少しだけ着飾っても…いいかな?』
「ふふっ、えぇ。驚かせましょうか。」
二人は顔を合わせ微笑み合った。
「小袖は、信長様とお揃いにして。ちょっと派手だから打ち掛けは落ち着いた白にしよう。」
『お髪は、どうなさいます?』
「うーん、せっかくだからお団子にする。」
『へ? 団子?』
「あ、全部結い上げて、こうして、政宗の簪つけて。」
『このように、うなじを出すのですか?』
「うん、涼しいよ。ちょっと色っぽいしね。」
『あさひ様の着付けはとても珍しいですが、いつも感心致します。』
「変?」
『いえ、とてもお綺麗ですよ。さあ、行きましょう。』
二人はゆっくりと城門へ向かった。
城門は、迎えの者で一杯で賑やかだった。
しかし、突然静まり返る。
『あさひ様か?』
『なんとも…お綺麗で。』
『あの台所仕事してたあさひか?』
ため息混じりの声がざわざわと聞こえ出す。
先に来ていた秀吉、三成もその声の先を見た。
信長と揃いの小袖は、金糸と銀糸の刺繍が夕陽に照らされきらきらと輝いている。
真っ白な桜の花の打ち掛けの袂を持ち、ゆっくり歩くあさひは、とても美しく息を飲むほどだった。
そして、その後ろ姿は、うなじが見え政宗の簪が輝く。いつもの愛らしさではなく、大人びたたたずまいに、皆が見とれていた。
『あさひ様、なんと美しい。お手を。』
「三成くん、ありがとう。」
『やりすぎだ。皆が見とれてしまってるぞ。』
「ちゃんとお迎えしたくて。」
『まぁ、頑張ってたもんな。偉かった。
信長様の正室になっても、これなら大丈夫だ。
俺たちのお墨付きだ。』
『あさひ様がいて城は安泰でしたよ。』
「ありがと。」
あさひは、俯きながら答えた。
『泣いたら、化粧が取れるぞ。』
「な、泣いてない!」
秀吉があさひの頭を撫でる。
三成が、にこやかに微笑む。
その場には穏やかな風が吹いていた。