第4章 戦場の向日葵 ー後編ー
あさひが倒れた一日、秀吉の強引な計らいで何もせずゆっくりと過ごした。
嵐が過ぎ去った安土は穏やかで、開けている戸からは気持ちのいい風が吹き込んでくる。
安心して、落ちついて眠れたのは久しぶりで、目が覚めた翌日は、頭も体もすっきりとしていた。
「いい天気。」
信長の夜着を打ち掛けのように着て、天守の板張りにたたずむ。
「お迎えって、どうするだろ? 秀吉さんに聞いてみよ。」
あさひは、支度を整え広間へ向かった。
『あさひ、おはよう。眠れたようだな。』
「おはよう。秀吉さん。昨日は、心配かけてごめんなさい。」
『今日の夕には皆戻ってくるからな。騒がしくなるぞ!』
「そうだね。帰ってきたら食べるご飯とか準備しよう!」
『また、ですか?』
側女中が苦笑いする。
「一緒に、やろ?」
『仕方ありませんね、困った姫様です。』
「あ、秀吉さん。お迎えってどんなことするの?」
『あぁ、城門で皆で待つんだ、お出迎えするだけだぞ。』
「そっか。わかった!」
あさひは、たすき掛けを始める。
『いくらなんでも早くないか?』
「もしかしたら、早く着くかもしれないよ?」
『まぁ、昼食べてからだ。』
そわそわして落ち着かない様子のあさひを、秀吉も三成も、城下の皆が微笑ましく見つめていた。
昼が過ぎ、城内が慌ただしくなり始める。
あさひも、皆が戻ってから振る舞う料理を手伝っている。
汁物はもちろんあさひが担当で。
明るい笑い声が、城内をなごませる。
少しずつ夕暮れに近づいてきた頃。
台所の片付けをしているあさひに、秀吉が声をかけた。
『あさひ、その姿でお迎えするのか?』
「え?」
うなじは汗で濡れ、たすき掛けの着物は少し乱れていた。
「あ、これはダメだね。」
『駄目だな。』
『湯殿を準備させました。お急ぎください、あさひ様。』
「ありがとう!三成くん、急ぐね! シャワーほしい!」
『しゃ?』
突然現れる横文字に、二人は首をかしげた。