第4章 戦場の向日葵　ー後編ー

光秀が城を出て二日目の朝が来た。
あさひは、少しだけ天守で泣いた後、広間に花を活けようと水を汲みに行った。

『明智殿は、隊に会えただろうか？』

『連絡が遅すぎるな。』

『今日のうちに来なければ…』

家臣達の話し声が聞こえる。
あさひは、立ち聞きするつもりはなかったが、動く事ができなかった。

(電話とかも出来ないしね。)

ふっと、懐かしい時代の記憶が蘇る。

(簡単に大丈夫とか良かった、とか前向き発言しちゃダメだったのかも。)

そう思うと、尚更に動けなくなってそのまま座り込んでしまった。

(本当に無事なんだろうか？
誰か怪我でもしたのかも。
光秀さんだって、ちゃんと隊に会えたのかな。
あの足元の悪い中、行けたかな？
光秀さん、無事かな…

私は、なんにもわかってなくて、ただ大丈夫なんて簡単に言っちゃったけど…
本当は

もう自信がないよ。)

蓋をしていた不安な感情が溢れ出す。
無理に作っていた頑張る気持ちが、がらがらと崩れていく。
だんだん呼吸が乱れて、手先が痺れ出してきた。

(あ、やばい。過呼吸ってやつかも。ちゃんと息しなきゃ。ゆっくり、ゆっくり…)

意識すれば尚更早くなり、涙目で体が震えて立ち上がることが出来なくなってきていた。

『あさひ様？！』

駆け寄ったのは、あさひの側女中。
活け花の水汲みが遅く探しに来ていた。

『あさひ様、どうなさったのです？
お気を確かに！誰か！誰か！
秀吉様と三成様を！　早く！』

「大、はっ、だい、じょ、…はっ、よ。」

意識が朦朧として、視界が歪み始める。


『あさひ、息を吸え！』

見上げると汗を流して慌てる秀吉の顔。
冷たい手拭いでおでこを冷やす三成の不安な顔。

「ごめ…　のぶ、…ま。」

『あさひ！』

そのまま、あさひは秀吉の胸に体を預け意識を失った。