第1章 二人の距離
『…で、何かあったんですか?』
『約束って?』
ふぅ、とため息をつき信長は話始めた。
『二日後に、あさひと城下へ行く約束をしていた。』
『え、…聞いておりませぬ!』
『言っておらぬからな。』
『右腕って大変だな。』
笑いを堪えて、政宗が秀吉に言う。
『共も無しに、お一人で城下など!』
『秀吉、俺の城下だ。』
『ですが、何かあってからでは遅すぎます!』
『俺は負けぬ。』
『…秀吉さん。勝手に城下に行くのは、また別な時に追及してください。
信長様、それで、どうしたんですか?』
『あさひが、何を着ていくか迷っているようだった。』
『あさひ様は、せっかくのお散歩なのですから着飾りたいお気持ちなのですね。』
『俺に着物を選べと言った。』
『はぁ。…まさか。』
『何でもいい、とか言ったんですか?』
『よく分かったな、家康。』
『あさひに本当に言ったんですか?』
秀吉が身を乗り出した。
『あぁ。何を着てもあさひはあさひ。
着物でなにかが変わるわけではあるまい?
俺はあさひと出掛けるのだ。』
(そりゃそうだけど…)
誰もがそう思った。
『でも、あさひは御舘様のために着飾りたい気持ちがあったのですよ。』
『信長様との散歩、楽しみだったんでしょうね。』
『信長様、三成ですらわかる女心ってやつです。』
『それを、何でもいいといってしまったら、そりゃあさひは傷付くでしょうな。』
『俺なら、喜んで選ぶけどな。』
『政宗さん、俺もです。自分の好みに仕立てられますからね。』
『お、家康。わかってるなぁ。お前!』
政宗は家康の肩を抱くと、にやりと家康も笑う。
『あさひはへそを曲げた。どうすればよい?
知恵を貸せ。』
(信長様が困っているって珍しい!)
武将達は、人間臭くなった信長を穏やかに見つめた。
『謝っては…、いかがですか?』
『み、三成! 謝るって…』
『信長様なんだぞ!』
『じゃあ、何かありますか?』
『まぁ、そうだけど。なんか、冴えてる三成、むかつく。』
『謝る…か。』
『まぁ。それが手っ取り早いか。』
政宗が頷く。
『お一人で大丈夫ですか?』
意地悪に光秀が笑う。
『だ、大丈夫でしょ?』
家康が信長を、ちらっと見る。