第3章 戦場の向日葵 ー中編ー
三人を見送って、三日が経った。
信長様からの文には、心配ない。と書いてあって。
ついでに昼の支度を手伝ってることを褒めてくれた。
何で知ってるの? あ、秀吉さんか。
必ず文の最後には、愛しているって書いてある。
私も…、愛していますよ。
私は、姫としての作法なんて知らない。
着飾って座るより、みんなで笑ってる方がいい。
みんなが笑って、少しでも不安や寂しさが無くなればいい。
あんな静かな城は嫌いだから。
もうひとつ嫌いなのは、一人で過ごす天守の時間。
急に寂しさが込み上げて、涙が溢れる。
信長様と揃いの小袖を着て、ふんわりと香る信長様の残り香に包まれて眠る。
やっぱり寝付けないよ。
信長様は?
早く帰って来て。
戦なんか行かないで。
ひとりにしないで。
私を早く抱き締めて。
※※※※※
戦場の夜営地に安土から秀吉さんの文が届く。
安土の状況、政務、そしてあさひの話題。
昼の支度を手伝ってることが書いてあった時には、あの人も笑ってた。
政宗さんは、帰ったら作らせるって気合い入れてたな。
俺も、久しぶりに唐辛子かけないで食べてみようかな。
…なんて嘘だけど。
小競り合いの戦況は、友好協定を良く思わない大名が頑固で、ちょっと時間がかかってる。
策を練り直したりして、出来るだけ血が流れないようにしてる。
やっぱり変わったよ。信長様は。
前ならすぐに武力で押さえつけてた。
でも今は違う。
刀は握っても、あさひの言った、言葉の戦を続けている。
しびれを切らすのは、もうそろそろかもしれないけど。
文を読むとき、食事の時。
他愛ない話をする時。
俺たちはあんたのことを話すよ。
天幕で策を練るとき、左腕の三つの腕輪が俺たちと安土を繋げてる。
あんたを思い出す度に、温かくなるんだ。
きっと、信長様や政宗さんも。
戦場に向日葵が咲くように、あんたの記憶は、俺たちを優しく照らす。
早く帰るよ。
だから、待ってて。
誰にも見られないように、腕輪に口付けるんだ。
ねぇ?
そのくらいは、いいでしょ。