第3章 戦場の向日葵 ー中編ー
夜になると、俺は、御館様不在の間の報告のために、文を書く。
城の事、政務の事。戦の事。…あさひの事。
あれから、あさひは、掃除を手伝い、日課のように昼げの支度も手伝うようになった。
食べたことのない料理も並ぶ。
昨日は、大豆と野菜を炒めたものだった。
その前は、野菜の天ぷらうどん。
あさひも同じものを食べ、城勤めの奴らや女中と同じ場所に座る。
姫としての作法など微塵もない。
ただ、俺が知っている姫と違うのは、あさひが民に慕われているということ。
いつの間にか、俺でも知らないような家臣の話をして笑い合っている。
あさひの周りには必ず誰かがいて、柔らかな空気が漂う。
戦中であることを忘れるような、安心感に包まれる。
昼のあとは、あさひが御館様、政宗、家康に作った腕輪を女中に教えたり、裁縫を教えている。
願いを込めて作る腕輪は、今じゃ人気がある。
…俺もほしいくらいで。
あさひは安土の太陽で、向日葵のような笑顔で安心を与えていると、留守をしっかりと勤めていると、文に書く。
ただ、心配な事もある。
あさひは、出陣を見送ってから泣いていない。
いつも笑って明るく振る舞っている。
我慢してるのか。
俺はなんだか、聞けなくて。
あさひに戦況を伝えて、少しでも安心してもらえるようにする。
それしか出来なかった。
あさひが泣く場所が、俺の腕の中だったらいいのに、なんて思うのは…
謀反みたいなものか?
でも、思うだけならいいだろう。
今日くらいは聞いてやろうか。
寂しくないか?って。
…あさひの笑顔が曇るかな。
やっぱり、頑張ってるな。偉いな。って褒めてやるか。
ついでに、腕輪を作ってくれって頼んでみよう。
三成や、光秀より先に。