第3章 戦場の向日葵 ー中編ー
城中に味噌汁の香ばしい匂いが漂い始めた。
それは、執務をしていた秀吉と三成の場所にも。
『昼、ですね。味噌汁でしょうか?』
『なんか、いつもより香ばしいような気もするが…』
すると、襖を挟んで城勤めの男達の話し声が聞こえてきた。
男達は、足早にどこかへ向かうようだった。
『今日の昼、あさひ様が汁物をつくったそうだぞ。』
『あぁ、たすき掛けして髪を結い上げて、なんとも愛らしいお姿で汁物を配ってるそうだ。』
書簡を読む秀吉、筆を取る三成の動きが止まる。
『こんなこと、滅多にないぞ!お姿を拝見しなければ!』
秀吉と三成の視線が合う。
『お前達、どういう事だ?』
秀吉は、立ち上がり襖を開けた。
しかし、先程まで話していたはずの男達は、もうその場にはいない。
『三成、行くぞ。』
『あさひ様の作った汁物、食べてみたいです。』
『あ、あぁ。それもそうだが…』
二人は急いで台所へ向かった。
そこは、すでに列が出来ていた。
握り飯と汁物を持ち、各々が嬉しそうに座り食べ始める。
列の先頭辺りからは、聞きなれた声が響いていた。
「沢山ありますから。」
近くに寄ると、たすき掛けをして髪を結い上げうなじから汗が流れるあさひが目に入る。
太陽の光でキラキラ光る向日葵のような笑顔が、皆をほころばせる。
『俺達の光に戻ったか。』
『光秀。』
『あさひが考え込むのは性に合わん。思いのままに動くのがあいつだ。』
『だが、あんな姫見たことがない。下働きの者と親しげに…。姫として、御館様の正室として、もう少し意識してもらわなければ…』
『それは無理だな。あさひらしく正室として振る舞えるように周りを固めるのが俺達の仕事だ。』
『あさひの笑顔、見ていたいしな。』
『励め、兄様。』
光秀は意地悪く、秀吉を見た。
『秀吉様、光秀様。昼げをもらってきましたよ。』
『み、三成。お前いつの間に!』
『秀吉様、たすき掛けのあさひ様、愛らしかったです。』
『はぁ、。』
そうして、三人は賑やかな台所から少し離れた場所で食べた。
根菜がごろごろはいった味噌汁と握り飯。
味噌汁は、いつもより香ばしい味がして、自然に笑みがこぼれた。