第3章 戦場の向日葵 ー中編ー
(行っちゃった…)
急に寂しさや心細さで胸が一杯になる。
(でも、ダメ。弱気じゃお留守番できないもんね。
私らしくって、信長様、政宗、家康に約束したんだし。)
あさひは、ふぅ、と息をはいた。
『さぁ、お手並み拝見だな。』
「み、光秀さん。」
あさひの背中から意地悪な声がかかる。
『お前が安土の留守を守れるかな?』
「…頑張ります。」
『おい、あさひ、何を頑張るんだ?』
光秀とは反対がわから、優しい声がかかる。
「秀吉さん。何でもないです!」
『あさひが信長様不在の間、城をうまく仕切れるかお手並み拝見、と言ったんだ。』
『…光秀。あさひはまだ正室ではないのだぞ?
あさひ、無理するな。俺がやるから心配するな。』
「…ありがと。秀吉さん。でも、私、信長様の側で生きていくって決めたの。お留守くらい守れるようにならなきゃ。」
あさひは、真っ直ぐに城を見つめた。
『光秀!お前余計なこと言うなよ!』
『兄様、頼むぞ。』
『光秀ー!』
二人の言い争いをあさひは背中で聞きながら、ゆっくりと城へ戻った。
城内は、先程までの慌ただしさが消え、驚く程、静かになっていた。
(こんなに静かなの初めて…。私に何ができるかな。)
陽は空の真上まで昇っていた。
(もう、お昼か。)
あさひの足は自然と台所に向かっていた。
「何か手伝います。」
炊事場に似つかわない声と姿に、台所番や女中達は目を丸くした。
『あさひさま?!』
「お昼は、なんですか?」
『あ、えっ、あ、…簡単に握り飯にしようかと。
でも、勿論、姫様や秀吉様、三成様、光秀様はお膳です!』
「…私もおにぎりでいいですよ?」
『そ、そんな!』
「別々に作るなんて面倒だし。今日はおにぎりにしましょう。私も握ります!」
『いえ、火傷したら叱られますから!』
「大丈夫ですよ。ほらっ、あっち!」
『あさひ様、お気持ちだけ頂きますから。』
「…じゃあ、汁物作ります。それなら出来ます。釜戸の使い方教えて下さい!」
半ば強引に、あさひは昼の支度に参加し始めた。