第18章 梅薫る、春恋の風
『皆が揃いの髪飾りをつけて梅大祭を祝うのも素敵なものでしょうね。』
「うん。楽しみだね。」
『あさひ様は奥方様としてのお勤めもありますからね。歌会の歌はお決まりに?』
「…光秀さんに今日も習いながら考える。はぁ。」
…あぁ、そうだった。歌会があるんだった。
梅に合わせた歌。俺もまだ考えてない。
面倒だけど大事なことを思い出すきっかけになった、この会話に少し感謝しながら、俺は中に声をかけた。
『入るよ。』
『あ、家康。診察?』
「あぁ。軍議で報告するしね。少しいい?」
『はい、失礼しました。さぁ、湖都。』
咲が湖都に促して、部屋から出ようとする。
『あ、いや。二人とも居ていいから。』
『え、?…ですが。』
『昨日から今朝に掛けての状況を知りたいんだ。食事や寝付きとか。些細なことでも何でもいい。』
『…では、私はお茶を準備してきましょう。湖都。貴女(あなた)がお答えなさい。貴女に任せているのだから。』
『咲様、ですが、。』
『大丈夫よ、自信を持ちなさいな。貴女の仕事振りはあさひ
様が認めてらっしゃるから。』
「そうだよ、湖都ちゃん。」
『では、家康様。お茶をお持ちしましょう。』
咲は、そう言って部屋を出ていった。
「…私も、出ようか?」
『は?なんで?あんたは居なよ。』
「お邪魔じゃない?」
『…。なに言ってるの。診察だから。』
「えへへ。」
そう、診察なんだ。そこにたまたま湖都がいて、湖都が詳しいだけなんだ。
『昨日は、薬飲めてた?』
『…はい、飲みこみはお辛そうでしたが餡で嫌がることは少なかったように思います。』
『そう。眠れてた?』
『はい。咳き込むことは少なかったです。夜泣きもなく、お休みになられていました。』
『そう、ありがとう。』
『あ、いえ。滅相もございません。』
「熱もさがった気がするんだけど…」
『微熱だろうね。まだ耳元の腫れはあるから直ぐに解熱はしないだろうけど。』
「そっか。家康の薬はやっぱり効果抜群だね!」
『…当たり前でしょ。』
「そうだね。家康が来てくれて良かった。」
『…俺だけじゃないでしょ。』
「そうだね。湖都ちゃんもありがとう。」
『いえ、そんな…。』
「今日は少し休んで。軍議と歌会の準備が終わったら戻ってくるから交代しよう。」