第18章 梅薫る、春恋の風
『それでなぁ、家康。』
豆大福ときなこ餅の甘さが渋い茶で流れた頃、秀吉さんが神妙な顔つきで尋ねてきた。
『なんですか?』
『奏信様は、梅大祭は…無理か?』
『早く治るような治療はしますが、断言はできませんね。』
『…だよなぁ。』
『治った、と思った時が肝心なんです。そこで無理させたらぶり返してしまう。まして、童子なら尚更です。』
『そうだよな。じゃあ、今年は無理か。御館様に話しておくか。
あさひにもだな。』
『あさひなら、奏信様の部屋に居ましたよ。』
『そうか、なら早い。最近は梅大祭の準備で走り回ってるからな。探す手間が省ける。』
『おっ、じゃあ、俺も行く。豆大福ときなこ餅の差し入れでもしながら奏信様を見舞うか。』
『…じゃあ、この薬をあさひに渡すの頼みます。奏信様の夕餉の後の薬です。飲み終える頃、診察には行きますけど、俺も国から持ってきた仕事をやりたいんで。』
『あぁ、これか?』
『えぇ。一つを全部飲ませてほしいと伝えと下さい。あぁ、政宗さん。味を微かに付けた餡のみを小鉢によそっておいてもらえますか?』
『薬用か?』
『えぇ。お願いします。…あと、これを。』
『『なんだ?』』
薬棚から、小さな貝に入った軟膏を出す。秀吉さんと政宗さんが俺の手元を見た。
『あかぎれ用の、
軟膏です。』
『あさひにか?』
『いや、湖都にです。手があかぎれていたので。』
『『 …。』』
何故か時が止まったようで、二人が豆鉄砲をくらったように目を丸くしている。おかしいことは言ってないはずだけど。
『…へぇ。』
『…ほぉ。』
『なんですか?』
『いや。ふぅん。家康がなぁ。』
にやにやしながら、政宗さんか言う。
『…あ、すまない、家康。先に御館様に奏様の報告にあがることにする。薬も、その軟膏もやっぱりお前が届けてくれないか。』
『あぁ、俺も餡作りや奏信様の夕餉の仕度に向かう。この餅も頼むな。』
『…はぁ?なんなんですか、二人揃って。』
『いやいや、やっぱり直接渡すのがいいだろう。その方があさひも、…いや奥方様も安心するだろ?湖都には、ちゃんと軟膏の使い方を教えろよ?』
『軟膏なんて使い方はどれも一緒…』
『ちゃーんとな。手取り足取り、腰取りな。』
『まさむね!腰取りは、余計だろ?』