第18章 梅薫る、春恋の風
『調合は終わったか? 終わったら言えよ。茶を入れるからな。』
少し離れた文机に、風呂敷包みから出した重箱を並べて皿に盛り付けている。きなこ餅と豆大福か。
…政宗さん、あんたは本当に何になりたいんですか?
まぁ、きなこ餅は好きだから、有り難く頂くけど。
『終わりましたよ。…また、そんなに作ったんですか?』
『足りねぇよりいいだろ?集中したら、腹も空く。食は生きる基本だからな。ほらよ。…もう少ししたら、秀吉も来るから。』
『は?秀吉さん?…何しに?』
『診察の話が聞きたいんだろ。仕方ねぇじゃねぇか。』
はぁ、っと溜め息をついて、政宗さんから小皿を受けとる。
『頂きます。』
『おう。』
甘く、ほんのり塩気のあるきなこ餅。色々食べたけど、やっぱり政宗さんのが、一等食べやすい。
『…旨い。』
『へぇ、素直だな。』
『旨い物に、旨いといっているだけです。』
俺はそう言って、政宗さんに空になった小皿を渡すと、豆大福をのせてきた。
『豆に塩気を含ませた。旨いぞ。』
『そうですか。』
『…で、どうなんだ?奏信様は。』
『…喉がかなり腫れてしこりもありました。痛みで飲み込みも出来なかったんでしょう。肺や腹の音は問題無かったので、喉の薬を調合しました。』
『じゃあ、飲み込みやすい餡を作るか。』
『そうですね。ただ、あまり刺激のある味付けは控えてください。』
『わかった。あとは、滋養のある食事か。…よし、そっちは任せろ。』
ぽん、と胡座をかいた足を叩く政宗さん。
あんたは料理人じゃなく伊達家当主なんですよ、まったく。
でも、まぁ。俺も医者じゃない、徳川家当主なんだけどね。
皆甘くなるんだ、あの子と奏信様には。この世のしてあげられることなら、何でもしてあげたい。
そう思いながら、俺は豆大福を頬張った。
塩味が絶妙なそれは、やはり一等で。
『旨い。』
『はっ、誰が作ったと思ってんだ。』
そう得意気に言うと、政宗さんは嬉しそうに豆大福をひとかじりしして茶を啜った。
程なくして、秀吉さんがやってきた。
同じように奏信様の状況を話す。秀吉さんも、政宗さんのきなこ餅と大福を食べて、秀吉さんが点てた茶を皆で啜った。