第18章 梅薫る、春恋の風
誉められて嬉しかったのか。驚いたのか。
湖都の頬が赤らんだようだけど、それは知らない不利をした。
『あんたさ、俺の部屋わかる?』
『え、あ、はい。』
『何かあったら呼びに来て。』
『薬を調べてくる。』
『畏まりました。』
俺は立ち上がると部屋を出た。
奏信様は、荒くした息遣いで寝ていたが診察していても愚ずらなかった。湖都の気配に安心しているのだろう。
頭を下げる湖都の姿を見る。
袖口から見えた小さな手に無数のあかぎれが見えた。
※
「あ、家康!どうだった?」
『あさひ、どうしたの?』
「奏ちゃんの診察をしてくれてるだろうから、お茶を持ってきたの。あとお土産のお菓子と。」
『…診察は終わって、湖都から預かった薬包を調べるのに部屋へ行くところ。今の薬を飲まないなら、早めに違う薬で手を打たないと。だから、茶と菓子はあんたと湖都で食べて。気持ちだけもらっとく。』
「そっか。ありがとう。…奏ちゃんは?」
『胸の音も息遣いも特に気にならなかった。咳は、喉の違和感が出るからだろうね。喉がかなり腫れて耳元も腫れて熱を持ってた。』
「扁桃腺?!」
『へ、んと…?先の世ではそう言うの?』
「あ、うん。あまり詳しくはないけど。」
『そう。腹の動きは食べてないから鈍いけど、張ってはいなかった。喉さえ良くなれば熱は下がると思うよ。』
「良かったぁ。流石、家康。ありがとう。」
『うん。…じゃあ、行く。』
「うん、。あ、じゃあ、湖都ちゃんとお菓子頂くね!」
『あぁ。』
曇り空みたいなあさひの顔は、途端に向日葵みたいになった。でもその百面相も全部、俺のじゃなくてあの人のものだから。
もう、過去に置いてきた筈のあさひへの淡い想いを打ち消すように、俺は自室へ向かった。
※
『…で。あんたは何しに来たんですか?政宗さん。』
『久しぶりに、お前の仏頂面を拝みに。それと奏信様の状態を聞きに、だな。じゃないと、奏信様の食べられそうなもの作れねぇ。』
自室で、湖都から預かった薬包の中身を調べたあと、先程の診察で得た情報から調合し直す。
的外れな調合にため息が出て、城の医者の力量を疑った。
薬研や乳鉢で調合していると、政宗さんがやってきた。案の定、返事をする前に襖を開けて。そして、今に至る。