第17章 唐物の赤い壺の秘密 後編
『くそっ。』
『さて、終いにするが…、佐助、何かあるか?』
『あ、その巾着。俺のです。』
『そうか。ほら。貴様は手癖から叩き直してやろうな。』
光秀さんの合図で、捕縛された小さな子の手元にあったウエストポーチが放り投げられた。
光秀さんの冷たい視線で、あの子の顔は青ざめている。
…そりゃそうだ、これからを想像したら私も青ざめるよ。
『あと…』
佐助くんが、捕縛され銃を突きつけられた彼女に近付いた。
私も光秀さんも、静かにそれを見つめる。
佐助くんは、その場に似使わないくらい優しく彼女の顎を持ち上げた。
『…言いたいことがあるんだ。』
『なんだい。』
『まず一つ。あの巧みな小細工。感激したよ。礼を言う。』
『はぁ?』
『あと、もう一つ。これが最重要だ。』
『ったく、なんだい?これから冷たい部屋の中には入るんだ。早くしてくれないかい?』
『…そうだね。冷たい部屋の中で猛省してほしい。』
ぐっ!
佐助くんが、彼女の顎をきつく持ち上げた。
『尊敬する家康公の髪は、すすきなんかじゃない。
黄金色に輝く、柔らかな絹糸だぁ!』
佐助くんの珍しい叫び声と光秀さんの高らかな笑い声に、一瞬顔を歪めた彼女は、次に見たときにはぐったりと項垂れていた。
え、そこ?…佐助くん、相当怒ってたんだ。
黄金色に輝く柔らかな絹糸…
あとで、家康に言っとこ。
『佐助。すまぬな、手まで汚させて。』
『いえ。みぞおち一発、手なんて汚れませんよ。』
『そうか。…では、終いだな。天守で報告までが、お前の乗りかかった船だ。』
『わかりました。…また、秀吉公の点てた茶が飲める。』
『あぁ、一時とはいえ姫の軒猿だった最大限の礼をしよう。』
妙に馬が合う二人を眺めていると、蹄の音がした。
政宗と家康だ。
『終わったようだな。…混ぜてもらいたかったぜ。』
『あちらも、予定通り終わりました。』
私が飾った壺を回収に来た忍の捕縛だろう。
政宗と家康が、私の部屋に忍び込んで、待ち構える手筈だった。
「じゃあ、無事に終わったの?」
『あぁ。あの壺は、また天守に戻った。』
『行くよ。まだ最後の報告がある。あの人と秀吉さん、あとあいつが待ってる。』
「あ、うん。…う、わぁ。」
『え?』
『どうした? ったく。』