第17章 唐物の赤い壺の秘密 後編
そう思って、来た道を振り返った時だった。
「あ、あなたは…。」
『お久しぶりですね。お姫様。』
あの時、ぶつかった女中さんが目の前に立っていた。
装束は佐助くんの様で、あの時とは違う刺すような視線に、一歩後ろへ下がって距離を取る。
『あの時、あんたにぶつからなければ、余計な気苦労も、こんな面倒な仕事もしなくて良かったのに。』
「でもっ。」
『あんた、あれ。見たの?』
あれ、どっちのことだろう?
二重底の細工? それとも、紙の事?
『あの壺は何処に隠してたの? 探しても見つからなかった。』
「え、…部屋を荒らしたのは、まさかっ!」
『早く回収しなきゃ、あたしが叱られちまうからね。でも、見つからなかった。』
「あの壺は、あってはならないものだったでしょう!」
『…そうかい。只のお姫様じゃないって噂だったけど、あながち嘘ではなさそうだ。あんた、知らなくていいことを知ったようだね。
やっぱり…、生かしちゃ置けないな。』
一歩、二歩と引き下がるけれど、足が震えてしまって、彼女との距離が広がらない。
きらっ、と目の前で光ったのは、彼女が背中から抜いた刀だった。
やだっ、信長様っ!
両手で頭を庇う。買った花束が宙を舞った。
がきん!
『やっと見つけた。無事で良かった、大丈夫? あさひさん。』
ぶつかる金属音に、一瞬驚きながら親しい声に安堵する。
「佐助くん。」
『待ち合わせ場所に来ないから探したよ。…うまい具合に聞き出せた?』
「あ、。う、うん。私の部屋を荒らしたのもこの人で、壺をさがしてたって。回収しなきゃ叱られるって。」
『そう。最高の証言だ。』
『貴様、見たことあるぞ。上杉の飼い猿か。』
『奇遇ですね、俺も貴女をかの大名屋敷でみたことがあります。…あと、今は、姫の軒猿です。』
『おしゃべりな猿だね!一人で何が出来るんだい?』
「わぁっ!」
一瞬で、私と佐助くんは黒装束の忍立ちに囲まれてしまった。
「佐助くん…」
『大丈夫。クナイが光秀さんかその忍に知らせに行ってる。もう少しの辛抱だから…、煙玉で逃げよ、、えっ?』
佐助くんが腰周りを触りながら驚いている。
『探し物かい?』
嘲笑うような声に彼女をみると、小さなウエストポーチのようなものをくるくると回している。
そして、足元にはあの小さな子。