第17章 唐物の赤い壺の秘密 後編
『本当にお美しい壺でございますね。御舘様から送られたのでしょう?』
「うん、素敵だよね。天守でよく眺めてたら、部屋に持っていけって仰られて。」
『そうでしたか。それは、ようございました。』
朱に白椿が描かれた壺は、私の自室の床の間に飾られた。
佐助くんの魔法にかかって割れたのが嘘のように綺麗な状態で。
「お花を生けてみようかな。」
『まぁ、素敵ですこと。』
いつも身のまわりを世話してくれる女中さんと、話す声はいつもより大きめに。
「城下で探してみます。」
『では、誰か護衛を。』
「皆さん忙しいようですし、まだ陽が高いから大丈夫。すぐに帰ってきます。」
『左様ですか。承知致しました。』
城下に行くことを、しっかり知らせる。
そして、私は城下に向かう。
出来るだけゆっくりと、お団子なんて食べながら。
そうして、花屋で花を買い、ついでにと城下の手前の野原で花を摘む。
…それが、佐助くんに言われた私の行動だった。
『一人だけど一人じゃないから。俺が一緒にいるから。それに光秀さんも、その忍の皆さんも側にいる。』
どこから来るかわからない襲撃?に不安がよぎるけれど、佐助くんの言葉を信じよう。
そう思い、花屋で買い物を終えた時だった。
道端で子供が泣いている。
『お母ちゃん!どこー?』
迷子かな?
膝が擦りむけて血が滲んでいた。
「どうしたの?転んだの?」
『えっ。』
「あ、びっくりしたね。大丈夫だよ。迷子かな?」
私は手拭いを引き裂いて膝に巻いてあげながら、ゆっくりと話しかけた。
「お母様は?」
『気づいたらっ、いなくて。ぶつかって、転んで。ひっ。』
「泣かないで。私が一緒に、お母様を探してあげるよ。」
『ほんとう?』
「うん。」
ちょっと作戦からそれるけど、仕方ないよね。
すぐ見つかるだろうし。
「おうちはどっち?」
『こっ、こっち。』
私は泣き止んだ小さな子の手を引いて、彼が指差す方向に歩きだした。
※
「あれ、城下の外れまで来ちゃったよ? おうち、こっちじゃないんじゃない?」
『んー? ちょっと見てくる!』
「えっ、ちょっと!」
突然走り出して居なくなってしまった小さな子。
呆気に取られながら周りを見渡すと、かなり予定の花を摘む場所から離れてしまっていた。
「戻るか…」