第17章 唐物の赤い壺の秘密 後編
『ご報告致します。佐助殿が話した、あさひ様とぶつかった女中ですが、やはり城内にはおりませんでした。』
『やはりか。』
「え、あの女中さん?」
『はい。名も台帳に記した所在もやはり出鱈目。場所としては存在するものの、そこは田畑でありました。改めて台帳に記した他の女中や家臣達の出所場所も洗わせております。』
「あの女中さんが、スパイってこと?」
『あさひさん、十中八九、君がぶつかった女中が忍び込んでいた大名のスパイ…、間者で間違いない。たぶん忍びか何かだろうね。そして、その女中が隠した紙を受け取り秘密裏に大名に届ける間者も忍び込んでいるはずだ。
俺が時々忍び込むことで厳しくなった警戒の中での、この行動。相手も腕が経つ筈だ。』
「そんな…。」
ぶつかったとはいえ、壺を割ってしまったことが、こんな展開になるなんて。
『さて、あさひ。』
信長様が私の方を向いた。
『貴様以外、その女中の顔を知らぬ。割った事を黙っていた仕置きとして、貴様が女中をおびきだせ。』
「えぇ、私が?…どうやってですか? それに佐助くんが言ってたじゃないですが。相手も腕が達つだろうって。」
『はぁ、あんた。馬鹿なの?』
『家康、馬鹿とはなんだ。これでもあさひは、奥方なんだぞ?』
『これでも、は余計だ。秀吉。』
『は、失礼を。』
「秀吉さん…」
『あさひがこの壺を割らなければ、間者の存在はわからず策は漏れ失敗していたかもしれぬ。仕置きはのちほどだ。
まず、おびきだす策とその後を考えよ。』
「仕置きはのちほど?…え、なんの、仕置き?この壺、割れてよかったんじゃないの?」
『壺を割ってしまったことを隠そうとしたこと、城の物を佐助に預けたこと、佐助と内密に会う約束をしたこと、それくらいか。』
『ははっ、奥方様は罪深いなぁ。』
『政宗、ふざけるな。三成、何か策はないか?』
『そうですね…。この壺を元に戻して飾れば、紙を回収にくる輩がいる筈ですが…、こんなに綺麗に割れてしまってはどうしようもありませんし。』
『そこは、お任せください!』
自信に溢れた佐助くんの声に、信長様の口角が上がった。
そしてそこから、私を中心に一つの作戦が決まったのだった。