第17章 唐物の赤い壺の秘密 後編
『あさひ、読んでみよ。』
信長様の一声で、その紙はわたしの手元に運ばれた。折り畳んだ箇所を優しく開くと、小さな字が見えた。
【 小さな三日月が昇れば 鉛玉と矢如く すすきが広がる 】
『すすき、失礼極まりない。許さない。』
家康の握った拳が震えている。
『例の大名を治めに行く手筈じゃねぇか。』
政宗の低い声が響く。
『あぁ、政宗。お前と家康が御舘様から任され秘密裏に準備をしていた策だ。』
『どっから漏れた?』
『漏れては、まだいないのだろうな。現に、主へ行く筈だったこの紙切れはここにある。』
『でも、内通者がいなければ、この紙切れは出来ない。』
「…あの。」
信長様の手のひらに小さな紙を乗せながら、小さな声を出しながら周りを見渡した。
『なんだ。』
「…意味が、わかりません。」
『秀吉。』
『はっ。あさひ、かいつまんで言う。
ある大名の謀反の準備を光秀が調べあげたのが一月前の話だ。
大名の謀反を治めに行くには、俺も光秀も、三成も抱えている案件が多く、政宗と家康に任せることにした。そこから三成が策を立て、書簡を交えて準備をしていたんだ。二人が国から戻ってきたのは、そのためだ。』
『【小さな三日月が昇れば】は、先陣が少数の伊達軍であること。【鉛玉と矢如く】は、鉄砲隊と弓隊。【すすきが広がる】は、それを率いて城を取り囲む徳川隊、そんなところだ。』
秀吉さんの後に、光秀さんが私に謎解きをする。
「すすきが、なんで家康? 家康の家紋は、葵でしょ?」
『…ふっ。竹千代の髪がすすきのようだから、ではないか?』
信長様が手元の小さな紙を、真ん中に置かれた壺の方へ投げた。
『ゆるせ…』
『許せない!』
家康の怒気に被せるように、佐助くんが口を開く。
『尊敬する家康公の髪を、すすき呼ばわり…。許せない。
信長様、乗りかかった船です。私にもこの後始末、参加させていただませんか?』
佐助くんの思わぬ怒りと参戦の申し入れに、家康が驚いていた。
『ふっ、仕方あるまい。だが、佐助。後始末が過ぎれば他言無用ぞ?』
『勿論。』
佐助くんのメガネの縁がきらりと光ったように見えたのは、私だけだろうか。
そんなことを考えていると、天守の入り口から三成くんの声がした。