第17章 唐物の赤い壺の秘密 後編
綺麗な形に戻ったように見えたあの壺は、簡単な力であの時と同じ場所が割れて転がっていた。
「佐助くん!」
あぁ、まずい。怒られちゃうよ。
そう思って身を乗り出した私を信長様が一括した。
『静まれ、あさひ。』
「…は、はい。」
『くっ。』
光秀さんが、意地悪に笑ってちらりと私を見た。
『はぁ。あさひがどうしたかは後にして、この壺に、何かあったんですね?』
『【俺ら】まで集まったのは、このためですか?』
『ふっ、流石よ。佐助、先ほど俺に話した詳細を、もう一度話せ。』
『はい。』
それから、佐助くんは転がった壺と欠片を並べて置いてから、いつもより低めの声で話し始めた。
『一昨日、あさひさんより、割ってしまったこの壺の修理を依頼されました。』
『え、あんたが割ったの?』
「え、うん…、ぶつかっちゃって。」
家康が呆れたように溜め息を付いた。
『茶屋で依頼を受けたので、持ち帰ることにしました。明日の昼までには返す話をして。』
『持ち帰って、何かあったのか?』
鋭い政宗の視線が、佐助くんに向けられる。
『茶屋で軽く壺を見たときから、気になっていた所がありました。ここです。』
佐助くんは、壺の方を政宗と家康、秀吉さんや光秀さんの順に見せてから、私にも見せてくれた。
割れ口の下辺り、そこに近い部分の内側に小さな穴が開いている。
『…へぇ。なるほどな。よく見つけたな。』
『二重底か。』
「え、二重底?」
政宗と家康は、もうからくりがわかっているようだけれども、私はさっぱりわからない。
『針穴くらいの小さな穴だったんでしょうね。割れた拍子に、穴も広がった。針で一枚目の底を開けられるように、この壺の口は広く作られていたんでしょう。』
そう言って、佐助くんは長い針のようなものを穴に射し込んだ。
ぱかりと空いたのは、私が底だと思っていた蓋の部分。
そこから指一本分くらいの空間が現れた。
『何か、入ってたのか? そこ、に。』
『あぁ。それを読んで佐助は、あさひの部屋ではなく俺の部屋に来たんだ。』
光秀さんは、そう言うと胸元から折り紙よりも小さな紙を出して、政宗に手渡した。
紙を開いた政宗の顔つきが厳しくなる。
政宗が家康に渡すと、家康も同じようだった。