第17章 唐物の赤い壺の秘密 後編
『珍客って、お前かよ。』
『和みすぎ。』
『…お邪魔してます。』
佐助くんは、信長様と向かい合わせに座って、秀吉さんが点てたお茶を飲んでいた。
「佐助、くん…! え、あ、明日じゃなかった?」
『は? あさひ、佐助と約束でもしてたわけ?』
「あっ、いや…。」
『秘密の逢瀬だそうだ。』
最後に天守に入った光秀さんが、立ったまま動けなくなっていた私の背中を軽く押しながら、部屋のなかに入ると静かに襖を閉めた。
『へぇ、あさひも隅に置けねぇな。』
「政宗、違っ!!」
『あさひ、気軽に佐助を呼ぶな。友好協定があるとはいえ、佐助は上杉方だ。家臣達の思いもあるからな。』
秀吉さんが、いつもより少しだけ厳しい口調で話を続けようとした時、脇息にもたれ掛かった信長様が、鉄扇をぽんと床に当てた。
『秀吉、もうよい。』
『はっ。』
『政宗、家康、座れ。あさひは此方へ来い。』
『『はっ。』』
「…はい。」
信長様を挟んで、秀吉さんと光秀さん。
秀吉さんの隣には、政宗。光秀さんの隣には、家康。
信長様の正面は佐助くん。
そして、私は信長様と秀吉さんの隣に座った。
『…揃ったな。』
『なんなんです?軍議なら広間ですればいいでしょう?』
『まぁ、まて。光秀、人払いは?』
『十二分に。念のため、配下に屋根裏等も見張らせております。』
『なんだよ、厳重だな。面白いことになってるのか?信長様、勿体ぶらずに教えて頂きたい。』
政宗が信長様の方へ姿勢を正した。ぎらりと光る政宗の眼が、獲物を見据えているようで、何故かどきりとする。
『…よし。 では、佐助。例の物を。』
『はい。』
信長様の合図で佐助君が近くにあった風呂敷を中央に置く。
全員の視線が集まった時、はらりと風呂敷から顔を出したのは…
『…ええっ!それっ!』
『朱に白椿か。上物だな。』
一昨日、城下で彼に内緒で託したはずの壺だった。
『何、焦ってるのさ。あんたあれ知ってるの?』
『佐助くん、それ…。なんで?』
『ごめん、あさひさん。』
佐助くんは、私に申し訳なさそうに頭を軽く下げて、壺を軽く倒した。
からん。
「はぁ!」
『お、おい!』
『…どういうわけ?』