第17章 唐物の赤い壺の秘密 後編
『ずいぶんやられたなぁ。』
『厄介ごと、招くの得意だよね。あんた。』
女中さんや家臣の方と散乱した部屋の片付けを進めて、ようやく終わりが見えてきた頃、背を向けた襖の方から懐かしい声がした。
「政宗、家康!…国に帰ってたんじゃないの?」
『あぁ、まぁ、色々あってな。』
『信長様から文が届いたから。』
「そ、そうなんだ。えっと…、信長様も秀吉さんも、みんな天守にいるはずだよ?」
『あぁ、挨拶はしてきた。あさひはどうしたか聞いたら部屋の片付けだって聞いてな。』
「手伝いに来てくれたの?」
『まさか。からかいに来たんだよ。』
政宗の悪戯な表情を仰ぎ見た家康が溜め息を付いた。
『はぁ。…で? 無くなったものとかあったの?』
「それが、…無いの。」
『『 は? 』』
「箪笥の引き出しが全部ひっくり返されて、裁縫箱も依頼の反物を入れた箱も、文机の中も全部ぐちゃぐちゃだったけどね。
この部屋にあったものは、何もなくなってないんだ。」
『まぁ、良かったじゃねぇか?』
『…この部屋に、ってどういうわけ?』
「あ、ほら。私がここに来た時の荷物は、天守にあるから。」
『なるほど。…じゃあ、なんで荒らしたんだろうな?』
『何か、を探していたのは間違いないでしょうね。』
『心当たりあんのか?』
「…ないよ。わからない。」
『そう。…逆に何かを仕込まれたりしてなかった? 水差しとか。』
「水差し自体が、元々無かったから。」
『なんで?』
「お得意様の依頼があるとね、汚したらいけないから水物は入れないことにしてるの。私、寝起きは天守だから、ここは作業部屋みたいに使ってたし。」
『…そう。』
『なんか臭うな。』
『えぇ。とても。』
「え、何が?…私、何にもしてないよ?」
突然、自室を荒らされたと思ったら、信長様含め皆が天守にこもりっきりになり、何かが私の知らない中で始まっているようで気味が悪かった。
だからなのか。
政宗と家康の一言一言が怖くて、なんだか焦ってしまう。
すると家康の隣から、光秀さんが、いつもの笑みを従えて現れた。
『政宗、家康。天守で信長様が御待ちだ。あさひ、お前もだ。』
「え?私も?」
『あぁ、珍客が来ている。』
「『『 …珍客? 』』」
私と政宗、家康が揃って光秀さんを見た。