第16章 唐物の赤い壺の秘密 前編
『なぁに、火種になるような物事は、何処かしこに転がっているものだ。…それに安土の奥方になろう御方が一人歩きすれば世の中は慌ただしくなるだろう?』
『君は立派なプリンセスだからね。じゃあ、明後日。』
「え、あ、うん!」
佐助くんは、光秀さんに一礼をしたあと人混みに消えていった。
一升瓶と割れた壺と一緒に。
『さあ、姫君。帰るぞ。兄様が鬼になるぞ。』
「あ、はい!」
夕暮れの風がいつもより冷たくて、なんだか胸騒ぎがするようだった。
それは、佐助くんと光秀さんの話が妙に似ていたからなのか。
私は急いで、迎えに来てくれたのに先をどんどん進む光秀さんを追いかけた。
秀吉さんが鬼に変わらないように祈りながら。
※
『また、何処行ってたんだ!』
「…ごめんなさい。佐助くんと会ってて。」
『出かけるなら、護衛を付けろと言ってるだろ?…何かあったら一大事だ。なんで一声かけなかった?』
「急いでた、から。」
『…御館様の御正室になる姫君なんだから、何かあったら困るんだ。な、次は誰かに護衛を頼め。必ずだ。』
秀吉さんは、鬼になってたけれど、最後はいつもみたいに優しく頭をなでてくれた。
その後は、いつものように皆で夕げを摂った。
『城下はどうだった?』
信長様の酌をしていると、声をかけてきたのは秀吉さんだった。
「いつも通り賑やかだったよ。少し人が増えた気がした。」
『そうか。まぁな、上杉武田との協定で商人の往来も増えた。その分、治安を保つのも難しい。』
「そっか。誰もが住みやすくて安心して生活が出来るようにしなきゃならないもんね。」
『あぁ、。だからな、明日からは必ず護衛をつけろよ?』
『あさひ、明日は俺が護衛になってやる。』
「えっ、信長様が?」
信長様の言葉に驚いていると、秀吉さんが、また鬼のような顔をした。
『お、御館様は政務がございます!』
『城主が城下を見回って何が悪い?』
『視察ならば私もご一緒致します。御館様と御正室のあさひお二人だけでなど言語道断です!』
「…じゃあ、みんなで行きます? ほら、光秀さんも帰って来たことだし。」
『あさひ、俺を巻き込むな。』
『光秀!お前も、もっと政務をしろ!』
『秀吉、お前も、とはなんだ?』
『あ、いや、それば!そうではなく!』