第16章 唐物の赤い壺の秘密 前編
「そう、じゃあ、私が預かるから!」
『えっ!』
私の言葉に女中さんは、目を丸くした。
「私も不注意だったし、あなただけのせいじゃないし。宝物庫に置くなら、私がこっそりどうにかしておくから。だから、私が預かる!」
そういうと、手拭いを出して欠片を包み、壺の方は抱えて着物の袂で隠した。
『ひ、姫様…』
「大丈夫。ほら、怪しまれちゃうから行って!私がどうにかするから!」
『で、でも…』
「いいから!私なら怒られても、そこまでじゃないし…、多分!ねっ?」
そういうと女中さんは、頭を下げてぱたぱたと私が来た道をかけていった。
姿が見えなくなると、壺を抱えて一目散に自室に駆け込んだのだった。
※※※
「これ、天守にあったやつだよなぁ。」
自分が小さく呟いた言葉に、背筋が凍る。
国宝級の、しかも同盟相手の方からの品。
綺麗に割れた白椿。 …まずい。
(アロンアルファ、木工ボンド、…ないか。糊になるもの…米粒。
米粒で、つくわけ無いしね。ははっ。)
まかせて!と言ったものの、どうすればいいか見当がつかない。
「どうしよ?」
締め切った部屋の襖から覗く陽の光を眺め、途方に暮れかけた時、私は救世主を思い出した。
壺と欠片を丁寧に風呂敷に包むと、急いで羽織を着て彼を探しに向かう事にした。
なんでも作って叶えてしまう眼鏡をかけた同郷の彼なら、活路を見いだしてくれるはずだから。
※
太陽はすでに真上に登っていた。
城下から市に続く道を早足で歩きながら、彼の姿を探す。
「今日は、いないかなぁ。」
携帯があれば、すぐに連絡が取れるのに。
そんな、もう叶わない向こう常識を思い出して、ふと懐かしく思う。出直して、狼煙を上げようか…そんなことを考えて来た道を引き返した。
『毎度、ご贔屓に。』
『えぇ、また。』
「…、え。さっ、佐助くん!?」
諦めていた探し人が、急に目の前に現れた。
『やぁ、あさひさん。』
『あれぇ!姫様!』
「こん、…にちは。」
『こちらの方が仕えている越後のお偉い様が、うちの酒を好んでくれたようでね。いい商いをさせてもらってるんですよ。』
ちらりと佐助くんの手元を見れば、一升瓶が。
『辛口だけど、ほのかに甘味があってやめられないらしいんだ。』