第15章 魔王様の徒然なる育児日記
「あ、えぇ。お願い致します。」
あさひが丁寧に礼を言うのをよそに、信長は歩き始めた。
「信長様!」
『なんだ?』
「政務はどうしたんですか?奏ちゃん、寝てたんじゃないんですか?」
『政務は、休憩だ。奏は、起きて花瓶の花を食っていた。腹を空かせていたようだからな。連れてきた。』
「はなぁ?飲んじゃったの?」
『…いや。ぺっ、させた。』
「あ、そうですか。ぺっ、したんだ。…ぺっ?」
『なんだ?』
「いや、信長様がぺって言うと思わなくて。…ねぇ?」
あさひが振り返ると、咲や弥七、吉之助が小さく肩を揺らしている。
「ところで、それ。金平糖ですよね?」
『…。』
「秀吉さん。に黙って抜け出したんですよね?」
『…。だったらなんだ。』
「嵐の予感がしますよ?」
あさひがそう言うのと同時に、信長は城門へ続く道先を見据えた。
『あぁ、そうだな。持っていろ。』
信長は、風呂敷をあさひに手渡した。
「え、なんで?…あっ!」
信長の視線の先を見ると、走りよる二つの影が。
顔は見えないが、きっと怒っているだろうと想像が付いた。
「やだ。私、怒られたくない。咲、持ってよ。」
あさひが咲に風呂敷を渡す。
『弥七、あんたが持ちなさいよ。』
『なっ、なんで?吉之助、お前持てよ。』
『はぁ?ちょっ。』
風呂敷が四人の手の中で踊り出す。
『おーやぁーかぁーたぁーさまぁー!』
「わぁ、来た。私、知りませんからね。」
『あさひ。』
信長は、手早く逃げようとするあさひを盾にした。
「ちょっ!」
『はぁっ、はぁっ。御館様っ!奏様も、なぜ城下に?』
『散歩だ、言わなかったか?』
『厠とは聞きましたが!』
『言い間違ったのだな。』
『なっ!奏様をお連れになるなら尚の事!護衛を付けてください!』
『必要ない。』
「…ごめんね、秀吉さん。ごめんね。」
『それに、何か城下で召し上がったり買われたりしたのではないですか?』
『おあんご!』
『…奏。貴様。』
「言っちゃったよ。」
『やはり!信長様、夕げ前に甘味など腹が膨れてしまいます!』
『…旨かったな、奏。』
『あいっ!』
信長は、秀吉の横をすり抜け歩き始めた。
『おっ、お待ちください!』