第2章 戦場の向日葵 ー前編ー
(信長様は赤を基調に、政宗は青で、家康は黄色。)
端切れを縦にさき、片方を結んで編んでゆく。
(ミサンガなんて、何年ぶりかな?)
学生時代に作った記憶を思い出し、三つ編みのような編み方で、ひと織りずつ祈りを込めた。
(怪我しませんように。
ちゃんとご飯食べられますように。
眠れますように。
早く…帰ってこれますように。
ミサンガって、切れたら願いが叶うんだっけ?
御守りとはちょっと違うかな?
でも、まぁいっか。
手首につけて、少しでも…、心を守ってあげれたら。)
出来た三本のミサンガを胸に抱き、目を閉じる。
(私の代わりに守ってね。ボロボロになってもいいから、みんなを連れて帰ってきて。)
あさひの瞳から、涙が流れた。
(やっぱり泣いちゃう。
泣くのはこれで終わりにしなきゃ。)
声を殺して泣いていたはずだった。
あさひは、手拭いを目にぎゅっと当て、深呼吸をする。
(よし。)
ミサンガを裁縫箱にしまい、謙信からもらった手鏡で顔を確認した。
(やっぱり腫れちゃってるか。手拭い冷やしてこよ。)
あさひは、ゆっくり襖を開けた。
すると、青と黄色の羽織が視界を遮った。
『また、泣いてたのか?』
『目、腫れてる。』
「家康、政宗…。急にどうして。」
『俺達、昼から暇を頂いたからな。御殿に帰ってもよかったけど、お前のあの顔を見てたら、気になってな。』
『俺も。』
「大丈夫、まってるって決めたから。」
『強がり。』
『泣き虫だからな、あさひは。』
政宗が頭を撫でる。家康が手を握る。
「お茶、飲もっか?」
あさひが柔らかく微笑むと、ふたりも優しく頷いた。それから、空が夕焼けに染まるまで他愛のない話をし、笑って過ごした。
『さて、お前はもうすぐ天守だな。俺達も帰るか。』
『そうですね。ここであさひの足止めしてたら斬られますから。』
『明日、必ず見送りに来いよ。』
『泣いたら承知しない。』
「わかってる。」
『あんたは、笑ってればいいの。』
『俺達は、お前の笑顔を目印に帰ってくるから。』
あさひは、また何も言えずにうつむいた。
『ほら、また泣く。』
「泣いてない。」
『大丈夫だ、あさひ。』
夕陽が三人の影を優しく照らしていた。