第15章 魔王様の徒然なる育児日記
時を少しだけ遡り、信長と奏信が甘味を頼んでいる頃ー。
『御館様!おやかたさまぁ!』
いつまで待っても厠から戻らない信長を不振に思い始めた、秀吉は広間から出て、足早に城内を探し始めた。響き渡る信長を呼ぶ声に、自室で書物を読んでいた光秀も顔を上げる。
『気付いたか、…煩い奴め。』
光秀は、立ち上がると声の聞こえる方向に歩き出した。
『…あっ、光秀!御館様を見なかったか?』
『厠だろう?』
『こんなに長い厠があるわけないだろ。…はっ!まさか、腹の具合でも悪いのか?医者だ、医者を呼ばねば!』
『…お前は何なんだ?』
『おいっ、医者を呼べっ。御館様ぁ!』
早合点の秀吉により、城内は慌ただしさくなり始めた。
すると、バタバタと廊下を走る足音が聞こえた。
光秀と秀吉ふ、その先に目を向ける。
『ひっ、秀吉様ぁ!』
『…輝真?』
『はぁっはぁっ、そっ、奏信様を見かけませんでしたか?』
肩で呼吸をしながら輝真が秀吉に声をかけた。
『は?奏信様?…見ていないが、!いらっしゃらないのか?』
『はっ、はい。昼寝をされている側で控えておりましたが、迂闊にも寝てしまいまして。目が覚めたらいらっしゃらなくて…』
自身が寝てしまったことも含め、輝真は涙ぐみ始める。
『奏信様にっ、なっ、なにかあったら…、おれはっ!』
『…。輝真。案ずるな、一緒に探そう。ところで、お前、ここに来るまでに御館様を見なかったか?』
『えっ、御館様?いえ、お見掛けしませんでしたが。』
『…そうか。やはり腹の具合でも悪いのかもしれないな。輝真、今、三成を呼ぶ。三成と奏様を探すんだ。俺は、医者を…』
信長と奏信がいない、それをよく考えれば理由がわかるだろうに、なぜ貴様は。…と戦場で見せる秀吉の手腕を、光秀は疑問に思った。
『…秀吉。』
『みっ、光秀!なんでお前は、!落ち着きすぎだ!』
『よく考えろ。』
『は?お前こそ、もう少しっ…』
『信長様と奏様が共にいらっしゃらない。』
『あぁ。だから、こうやって…』
『お二人になにかあれば、俺の配下からすぐに報告が来る。』
『…あぁ。そういえば、そうだな。』
『…はぁ。お前は、御館様の事となると思考が止まるのか?』
『だからっ、なんだっていうんだ?』
光秀は、秀吉にゆっくりと諭すように話し始めた。