第14章 天下人の右腕は奥方の兄
『一着一着、御舘様との思い出があるから大切にしたい。って言ったか?』
「…言ってない。」
『仕立て直した羽織や飾り、一番最初に見せたりしたか?』
「見せ…、ようとしたらその前に家臣の方に誉められたりした。」
『だろ?俺だったら一番に見て、それに合うような帯や帯紐、髪飾りを探してやりたい。勝手に綺麗にされるより、綺麗にしてやりたいんだ。
自分より先に、着飾った可愛いお前を誰かに見られたら俺は嬉しくない。着飾った姿も、それに合うような何かを考えるのも、一番になりたいんだ。』
「…。そんなの、言われなきゃ…わかんないよ。」
『まぁな。』
あの方は、言わないからな。
『…仕立て直したら、何かするんだったのか?』
「うまく出来た組紐の花飾りを見てもらったり、このフリル、…ひらひらを見せて、…城下とかお散歩とか一緒にしたかった。」
結局は、御舘様のためじゃねぇか。ったく。
『それは、言ったか?』
「…まだ。」
『あさひ、お前なぁ。肝心の事を言わないでどうするんだよ。御舘様との思い出がある大切な羽織だからなんだろ?
御舘様だって言われなきゃわからねぇこともあるさ。』
「うん、そっか。」
『さ、謝りに行くぞ。』
「え?」
『わからず屋って言ったのは、良くないからな。』
「…でも。」
そう言って、あさひは大きな瞳に涙を溜めて俺を見上げた。
だから、それも見せちゃいけないんだって。まったく。
『お前だって言われなきゃわからないこともあったんだから、な。謝るところは謝るのが筋だろう?』
そう言って、俺はあさひの頭に手を置いた。
…その時だった。
『小娘、…いるか?』
彼奴の声がした。
『おや、兄様。こんなところで何してる?』
『お前こそ、どこ行ってた?
しかもあさひに小娘は無いだろうが!奥方なんだぞ?』
『…ふっ。わからず屋の奥方。城門で客人がお待ちだぞ?』
「えっ、お客様?」
『あぁ、急いだ方がいい。それに折角だ。その仕立て直した可愛いお洒落な羽織、とやらを着ていくといい。喜ばれるだろうからな。』
『う、うん。わかった。…誰かな?お客様なんて、いないし。
佐助くん?』