第14章 天下人の右腕は奥方の兄
あさひに客人が?誰だそりゃ?
『…早く行け。ほら。』
光秀が急かすように、あさひを立ち上がらせた。
城門で待っている客人の元に向かう。俺も、心配だからついていく。
すると、城門には、柱に寄りかかる御
舘様の姿が。
はぁ?
「えっ、信長様…」
『ほら、仕立て直した可愛いお洒落な羽織に合う物を選んでもらえ。ついでに、城下で新しく出た甘味処でも寄ってこい。』
「えっ、あのっ。」
『早く行け!』
「うん。…行ってきます。」
あさひは足早に御舘様に向かって走り出す。
御舘様が、あさひの羽織を触って、耳元で何か話されて…
城下に向かって手を繋いで歩いていく。
…え?
おれ、は?
『…なぁ、光秀。どういう事だ?』
『…どういう事って、こういう事だ。手っ取り早い仲直りには逢瀬だろう。』
『…なんで、は?お前はどこから知ってるんだ?』
『兄様が信長様の男心を諭しているくらいから、あらかた全部だな。』
はぁ?
『兄様は大変だなぁ。』
…まて、まて、まて。
なんだ?じゃあ、俺は結局何をしたんだ?
余計な主君の男心を諭して、余計な世話焼きをして…
肝心な仲直りのいいところは、光秀が持ってったのか?
は?
もう夕暮れに近いじゃねぇか。
彼奴、甘味処でも寄ってこい、とか言わなかったか?
あの新しい甘味処は…、金平糖も扱ってなかったか?
『行かせてやれよ。安土の安寧の為だ。』
じゃあ、最初から出てこいよ。
俺に任せて、いいところだけ味わうな。
『はぁ。』
もう陽が暮れる。
三成は、書簡や報告の内容をまとめあげたのだろうか?
それを俺はまた確認するのか…
俺のあの数刻は、なんだったんだ。
ただ、まぁ、解ることは、安土の安寧は守られたってことだ。
それは、なによりも大事なことだ。
俺は、茜雲を見上げて、今日一番の長い息を吐いた。
『次も頼むな、兄様。』
『はぁ、何をだよ?』
『無自覚な奥方への指南に決まってるだろう?』
『師匠は光秀、お前だろう?』
『俺は、政の担当だ。』
『お前なぁ!』
悪戯に笑いながら歩いていく片翼を追いかける。
安土の嵐は終わったようで、まぁ、いいって事だ。
俺の疲労は、この際どうでもいいってことで。
まずは、彼奴を追いかけることにした。
完