第14章 Purple Nail
カウンターに座る少女。オレンジジュースを差し出せば、ありがとうございます、と言葉が返ってくる。
「それで・・・どういったご用件でしょうか?澪様。」
楓「様なんて、いりませんよ。寺井さん。」
寺井「そんな恐れ多い。坊ちゃまにご協力して頂いておりますし。」
楓「私の持ってる知識を出してるだけですよ?」
そう言って微笑む少女。坊ちゃまがいつの間にか協力者として呼び寄せたこの少女が、少しばかり気がかりで仕方がありませんでした。
今こうして目の前で笑っているというのに、少女本人は笑っていないような気がしてなりません。こうして考えていることすら筒抜けになっているような気もします。
寺井「坊ちゃまは?」
楓「青子さんと下見に行かれました。」
寺井「・・・左様でございましたか。」
この少女の持つ情報網は恐ろしく広い。彼女が事前に情報を持ってきて下さらなければ後手に回っていた。
寺井「ありがとうございます。澪様。」
楓「・・・?何がですか?」
寺井「鈴木相談役の情報をお持ち下さり、誠にありがとうございます。」
楓「情報網に引っかかっただけですよ。」
そう言いながら、ジュースを口にする。
寺井「・・・澪様は聡明であられる。このような行いが、どういったことに繋がるかもお分かりかと。」
楓「寺井さんは優しいんですね。・・・分かっていますとも。それでも私は、手伝うと決めたのです。」
クスッと笑う少女。しかし、目が笑っていないことは分かります。
楓「今夜の次郎吉おじさんの挑戦状、受けてくださいますか?寺井さん。」
寺井「勿論ですとも。坊ちゃまが受けると決めたのなら、この寺井、どこまでもお供致します。」
楓「そう。良かった。」
そう言って、ジュースを飲み干すと椅子から降りられる。
寺井「お送りいたしましょうか。」
楓「大丈夫ですよ。準備があるでしょうから、お気遣いなく。」
寺井「・・・どうして、坊ちゃまをお助け下さるのでしょうか。」
呟いた言葉を拾われたのでしょう。くるりとこちらを振り返って、少女は言いました。
楓「彼が信用できると思ったからです。」
そう告げる少女は、どこか悲しそうでした。