第17章 Identity
目の前の少女は、とても危うい存在なのだと、改めて痛感した。
楓「・・・?快斗?」
快斗「ん?どうした澪。」
楓「考え事をしているようだったから。」
快斗「んー、まぁ、次の獲物を何にしようかと思ってな。」
楓「・・・そう、ね。最近、次郎吉おじさん何も買ってないし。いっそ海外に行くのはどう?」
快斗「それはそれでなぁー、長期学校休むのは違うし。」
布団に寝かせている少女はこちらをチラチラと見ながら申し訳なさそうに顔を伏せる。
快斗「澪?」
楓「・・・ごめんね、私がこんなだから・・・。」
快斗「・・・あのなぁ、澪。俺、別に澪が出来る協力者だからって理由だけで仲良くしてるわけじゃねぇからな?」
楓「・・・え?」
きょとん、と目を丸くする少女に、思わずため息が零れそうになり、グッとこらえる。
快斗「俺は、澪だから仲良くしてんだよ。澪って人間だから、こうやって会うし、世話も全然気にならねぇし。これが名探偵だったら即家から追い出してる。」
楓「・・・そ、か。」
快斗「だから、気にすんな。俺は、澪がいいんだよ。」
そう言って頭を撫でれば、澪は嬉しそうに目を細める。
楓「私、私ね、快斗に、澪って呼んでもらえるのが、凄く嬉しい。」
快斗「あー、そういや名探偵達の前じゃ、澪って名前じゃなかったよな。黒髪だし。」
楓「私の、大事な名前なの。楓は取って付けたような、もので・・・すごく、大事なの。」
うとうとと、少し眠そうに目が閉じている。
快斗「そっか。教えてくれてサンキューな。」
楓「・・・私の、遺伝子の・・親の・・・。」
すぅ、と眠りに落ちた少女。
眠りに落ちる前の、言葉に思わず顔が歪む。
快斗「・・・バカ野郎。」
そんなものに、縋らなければ生きていけなかった少女。
どうしてそこまでしなければこの子は生きていけないのだろう。
どうして、どうして、
快斗「・・・くそっ。」
どうして、自分は、見ていることしかできないのだろう。