第2章 Start Japanese Life
ベ「警戒心、強すぎたかしら。」
「なんのです?」
ベ「何でもないわ。それから、昨日伝えていた案件はなかったことにして頂戴。」
「それって、あのよくわからない案件です?毎日ターゲットに会うだけの。」
ベ「えぇ。先方に断られてしまったから、自分でやることにするわ。」
そう告げると、自身を助手席に乗せた男はエンジンをかけて車を走らせる。
「そうですか。わかりました。」
ベ「・・・随分と素直ね?バーボン。」
バーボン、と呼ばれた男。運転をしている本人である。
金髪の髪に褐色の肌。ベビーフェイスなこの男。
万人に受けそうなこの男なら、あるいは・・・と思ったのだけれど。
バ「重要な任務ではなさそうですので、食いつく必要はないかと思いまして。」
ベ「・・・えぇ、そうね。」
バ「それにしても、先方に断られるなんて珍しいですね。何か失敗でも?」
ベ「失敗なんてしていないわ。そうね、強いて言えば警戒心に負けてしまった、というところね。」
バ「・・・なるほど。」
窓の外はすでに暗い。ネオンの光で空の明かりは消え失せている。
ベ「暫くアメリカに戻るわ。」
バ「おや、任務が終わればすぐ退散ですか。」
ベ「貴方のその胡散臭い顔を見ずに済むと思うと嬉しい限りだわ。」
バ「これは手厳しい。」
肩をすくめるバーボン。そんな気など一切ないくせに、と思いながら、視線を外に戻す。
大丈夫。
それは、彼女の口癖である。甘えることが許されなかった彼女は、彼女自身へ呟くのだ。そう呟かなければ、心を押し殺さなければ、彼女は生きていけなかった。
最初はそんな口癖すらもわからないほど、彼女は無口だった。表情を変えることなく、まるで人形のようだった。けれど、今はどうだろう。
ベ「・・・。」
あぁ、なんて可愛らしい。