第10章 Mystery Passenger
バリィン!!!と大きな音を立てて、後の窓が割れる。
哀「えっ!?」
楓「きゃっ!?」
少女の悲鳴が聞こえてそちらを見れば、少年がこちらに向かって走ってきている。
コ「楓!」
楓「!はぁい!!」
少女は、少年と握っている手とは反対で、自分の手を掴んで窓へ飛び込んだ。
その直後、勢いよくバスが爆発して道路に投げ出される。
痛みはなかった。なのに、起き上がった時に、腕にピリッと痛みが走る。
哀「っ、」
楓「大丈夫?痛い?」
小さく声を出した私に気付いたのか、そう楓が声をかけてくる。返事をする前に、コナンに庇われる。
高木「コナンくん!?大丈夫かい!?」
コ「この子、怪我してるんだ!事情聴取なら僕受けるから、博士たちと一緒に病院に連れてってほしい!」
高木「え?あ、あぁ。わかったよ。」
楓をチラリと見ると、にこりと綺麗な笑みを浮かべる。
楓「私は大丈夫だよー。」
もう、彼女は泣きそうな表情を浮かべなかった。
高木刑事の車に乗せられると、コナンが口を開いた。
コ「逃げるなよ、灰原。自分の運命から。・・・逃げるんじゃねぇぞ。」
そう、念を押される。
高木「ほら、皆乗って。」
歩美「え、でも一人乗れないよ?」
楓「あ、私残るから、心配しないで。」
歩美「え、でも、」
楓「大丈夫。後でコナンくんと一緒に行くから。ね?」
歩美「・・・うん、わかった。」
そう言って、子どもたちが車に乗ってくる。楓は手を振って、見送ってくれた。
哀「・・・。」
足を見る。血だらけになっている、自分のではない血。きっと、あの小さな探偵さんのものだろう。・・・借りを、返されてしまった。
楓「哀ちゃんが行ってしまったら、私、凄く痛い。嫌なの。」
泣きそうになりながら、私にそう告げた少女。
私はその気持ちを知っていたのに、彼女に同じ気持ちをさせそうになってしまった。
あぁ、彼女にお礼を言わないと。借りも出来てしまった。
あの子が泣かないような、お礼をしないといけない。
無意識に、微笑んでいることに気づきはしなかった。