第10章 Mystery Passenger
これが最善策。この場は助かっても、事情聴取の時に否が応でも、あの人と鉢合わせになる。
このまま私が死んだら、皆の組織との接点もなくなって・・・。
「哀ちゃん、逃げないの?」
聞き覚えのある声が、真横からして顔をバッと上げると、そこには、天宮 楓がいた。
哀「貴方・・・どうして!」
楓「?だって、哀ちゃん逃げなかったから。」
哀「莫迦!早く逃げなさいよ!!」
楓「哀ちゃんも逃げなきゃダメだよ?」
そう言って、首を傾げる少女。どうして、冷静なのか。どうして、どうして皆と一緒に逃げてないの。
楓「哀ちゃん、行こう。時間も少ないよ。」
哀「っ、私はいいから、早く逃げなさい!!!」
楓「どうして?」
哀「どうしてって、死んじゃうのよ!?」
楓「哀ちゃんも死んじゃうよ。」
そう言われて、言葉に詰まる。
哀「私は!生きてても仕方がないのよ!!」
そう言えば、少女は自分から離れる。
そう、これでいい。これでいいんだ。私のせいで、皆に迷惑をかけるわけにはいかない。
私はここで、さよならをしなければいけない。
楓「生きてても仕方ないなんて、誰が言ったの?」
哀「貴方まだ中に・・・!?」
見て、思わず言葉を失った。少女は、犯人の持っていた銃を掴んでいた。
楓「哀ちゃんがここで死ぬというのなら、私もここで一緒に死ぬね。」
哀「なに、言って・・・」
楓「哀ちゃんは、分からない?大事な人が、自分を置いて、先に行ってしまうの。凄く、痛いの。」
銃口を、自分の頭に向ける少女に、止めなくてはいけないのに、止めれない。
楓「哀ちゃんが行ってしまったら、私、凄く痛い。嫌なの。」
哀「貴方・・・!」
楓「光彦くんや元太君、歩美ちゃんだって!博士だって!・・・きっと、貴方の写真を見て、貴方の姿をみて、大泣きするに決まってる。どうして、どうして気付いてくれないの!?」
今にも泣きそうな少女が、少しでも触れたら泣いてしまいそうな少女を、止める術なんて持っていない。