第1章 Welcome to Japan
フォ「ねぇベルモット。この髪じゃ目立つかなぁ。」
そう言って少女は自身の痛みを知らない髪を一房つまむ。
ベ「そうね。日本だと目立つでしょうね。嫌だった?」
フォ「ううん。嫌じゃない。でも、日本では目立つことをしてはいけないと、前にベルモット言ってたでしょう?」
そんなことを少女に告げた記憶が、ベルモットにはなかった。数年前、日本に向かう直前にこの少女の元に立ち寄った時があった。その時にでも呟いた一言を、覚えていたのだろうか。
ベ「・・・よく、覚えていたわね。いい子よ。染める・・・のは辞めましょうか。カツラにしましょう。」
染める、という言葉に少女が僅かに反応したのを見逃さなかった。
口に出して言うことは今までなかったが、少女は自分の髪色を気に入っている。不安なことがあれば髪をつまんでいじる事が多い。
フォ「勿論、それでいいよ。」
ベ「そういえばパスポートも用意しないといけないわね。用意出来る?」
フォ「うん。数日で届くと思うよ。」
用意する、ではなく届くと言った少女。既に手配を済ませていたらしい。
ベ「あら、名前は決めてたの?」
フォ「うん。日本名にしたんだ。・・・あ、ごめんなさい。」
急にしおらしくなる少女にベルモットは首を傾げる。
ベ「どうしたの?」
フォ「名前・・・全然違うから、ベルモットと一緒の席座れないかなぁ。」
その言葉にベルモットは思わず笑った。
ベ「大丈夫よ。何とでもなるわ。」
フォ「本当?」
ベ「えぇ。だから貴方は初めての飛行機を楽しむことだけ考えていればいいわ。」
そう言われ、少女はニコニコと笑った。
フォ「えぇ。本当に楽しみ。」
痛みをしらない金色の髪は肩下できれいに揃えられている。
少し吊り上がった目。綺麗な水色の瞳。真っ白な肌は陶磁器のようで、どれをとってもベルモットは好きだった。
以前は表情すら変えなかった少女の変化に、ベルモットは嬉しく思った。