第1章 ライオンの王子様
ー繋心sideー
昔っからコイツはそうだった。何か1つのことに夢中になると一気に周りが見えなくなる。
何かにぶつかりそうになったり、車に轢かれそうになった時だってあった。
今回だってそうだ。どうせ俺らの方に夢中になってたんだろ…はぁ…ったく、部活中なんだからしっかりしろって。
「まだまだガキだな…俺が居なきゃ…」
眠ってる裕香を見ながら呟いた言葉にハッとする。
俺が居なきゃダメ?何言ってんだ…もうコイツは高校生になった。保護者の俺の手から離れるべきだ。
そう思ってんのに体が勝手に動いちまう…今だって武田先生が居たんだから任せりゃ良かったのに。
咄嗟の自分の行動に思わず髪をぐしゃりと握り潰す。
裕香が倒れるのが見えて、居ても経っても居られなくなって真っ先に駆け寄って抱き上げた。
コイツのこと助けなきゃって必死になって周りが見えなくなってたのは俺もじゃねぇか…
はぁ…男子バレー部の実力見にきた筈なのに何してんだよ。
「烏養、裕香ちゃんの様子どう?」
「おー、まだ寝てる。そっちは?」
「1ゲーム終わって休憩」
トントンというノックの後に入ってきたのは嶋田と滝ノ上。
コイツら連れてきて正解だったな。
「裕香ちゃん、さっきもずっとお前見てたんだぞ?」
「あ?俺を?」
「そりゃもう恋する乙女って感じでな。そろそろ保護者、卒業してやったらどうだ?」
「うるせぇな、わかってるよ…」
わかってるなんて言っておきながらこの話題から話を逸らしたくて部活の様子を尋ねた。
話を聞けば聞くほど面白え。
コーチの件、前向きに考えて良いかもしんねぇな。
暫く話していると休憩が終わったのか、1年の眼鏡かけた長身のミドルブロッカーが呼びにきた。
「まだ俺コイツんとこ居るから…」
「へぇへぇ、わかってるよ!」
「裕香ちゃんのこと任せたぞー」
嶋田と滝ノ上に助かると言って手を挙げれば再び裕香に視線を移す。
「今日はお前の為に来たわけじゃねぇんだぞ?早く目ぇ覚ませ裕香」
ったく、どんだけ心配かけりゃ気が済むんだよ…なんて言いながらも何事もなかったことに安心して頭を撫でる。
…その姿をジッと見ていたヤツが居たことなんて気付かずに。