第6章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「中編」
ふたりでキッチンに立って一緒に作った鍋はとても美味しかった。
優しい味がした。私が「美味しいね」と声を掛けると、
炭治郎は
「料理で肝心なのは火加減だからな。今は火仕事はしていないけど、あの感覚は忘れてないんだ」
と得意げに言った。
穏やかであたたかい時間が流れている。
幸せだと思った。
洗い物も二人で並んでする。
それでも炭治郎が私に向けてくる目線は何か...
熱いものが篭っていて、すごく、気分が悪かった。
深く息を吸い込んで、精一杯の笑みを浮かべる。私はあの人の娘として生きていかなければいけない。
ううん、今は少し違う。
生きていかなければいけない、なんて義務感じゃなくて、私がそうしたいんだ。
本当に今更過ぎるけれど、
私はちゃんとあの人の娘として生きていきたいんだ。
「ねえ、炭治郎。あの人もみんなでお鍋を囲むと楽しそうにしてたよね。私達を驚かせようとたまに変わった具材を入れたり、スープも色んな種類を考えて。それにシメをお米にするか麺にするかで真剣に迷ったっけ。」
「…ああ、そうだったな」
「ひとつの鍋を囲って食べると他の料理よりみんなで一緒に食べてる感じがして好き、ってよく言ってたなぁ。」
「うん」
「本当に懐かしい。…あの人が作ってくれるご飯はいつもどれも美味しくて、あたたかくて優しい味がして…あの人のご飯を食べた時に感じたあのほわほわした気持ちを、私からもあの人に返してあげたかったんだ」
「そうか」
「それももう二度と叶わなくなってしまったけど、それでも今日、あの鍋を食べられてよかった。出来るだけ、あの人を思い出させる物に多く触れたかったから」
「…………」
「あの人が私にしてくれたことや、言ってくれた言葉を忘れないようにしたい。あの人がここで私達と生きていたことを忘れたくないの、絶対に」
向き合う事を避け続けて常に顔色を窺っていただけあって、自分でも驚く程あの人のことを鮮明に覚えていた。
そのとき、ずっと黙って私の話を聞いていた炭治郎が拗ねたように口を開いた。
「なぁ今日は一緒に風呂に入ろうか。昔はよくふたりで入っていたのに、ずっと出来なかったからな。ひとりで入る風呂はずっと寂しかったんだ」
「...え?」