第6章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「中編」
「華?」
「……私も、炭治郎が好きだよ。愛してる。私の気持ちは昔からずっと変わってない」
「本当か?嬉しいよ、華も俺と同じ気持ちでいてくれて。なあ、もっときみに触れさせてくれないか」
「……それは駄目だよ」
「どうしてだ?」
「私達は親子なの。あの人が死んだって、この事実は変わらない。お願い、分かって」
「...せっかく彼女が俺達を解放してくれたのに、どうして俺を拒むんだ?自由にしてもらえたのに、なんでそんな顔をする?」
「解放…?自由、って…」
「そうだ。彼女は優しい人だったから、俺達の苦しみに理解を示してくれたんだ。だから自ら姿を消した。彼女のことを忘れたくないと言うのなら、最期に遺してくれた彼女の厚意に報いるべきじゃないか?」
「馬鹿なこと言わないで!!」
それ以上聞いていられなくてつい声を荒げてしまう。嫌だ。もう何も言わないで。お願いだから。そんなこと言わないで。冗談にしたって笑えないよ。
悲しそうに視線を落とす炭治郎。でも私だって悲しいよ。炭治郎がまさか、そんな事を言うなんて。
「………どうして」
「……炭治郎、」
「どうしてだ…もう、俺達を阻むものは何もないのに…やっと、きみを、俺だけものにできると思っていたのに…ッ」
「だって、あの人は死んでしまったんだよ?だから炭治郎のその言い分は聞けないよ。ねえ、分かってる?あの人は、どんなに望んでももう二度と会えない人になってしまったんだよ?」
誰よりも命というものを尊んできたあなたが、なんで。そんな風になってまで炭治郎に想われても、私は辛いよ。
「炭治郎の気持ちはすごく嬉しい。私もずっとあなたを愛してる。でも、私とあなたはいま、血の繋がった親子なの。血の繋がりがある以上、世界は私達を恋人とは認めてくれない。」
「そんなのどうだっていい!!」
「…ッ」
「世界になんか認められなくていい!!きみを愛するのに誰かの許可なんて要らない!!俺達を認めない世界なんて俺は認めない!!俺はただ、華とふたりで幸せになりたいだけなんだ!!」
痛いくらいに私の肩を掴んで激昂する炭治郎。その勢いにあてられて泣きたくなった。私だって炭治郎と同じことを思ってたよ。報われない運命に怒りを感じたよ。でもどうしようもないの。お願いだから、聞き分けてよ。