第6章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「中編」
震える声で初めて母の呼称で呼んでみせると、嬉しそうに笑った。透き通る涙を流して、幸福に満ちた顔をして。
そうして間も無く、穏やかな顔で息を引き取った。
死んでしまった。
また目の前で人が死んだ。
名前を呼んでも体を揺すっても、命の抜けた体は微動だにしない。
何度経験しても堪え切れない喪失感に襲われる。
身体中の水分が涙になって流れてくる。
ふと、目の前のシーツが私の涙では無いものに濡らされているのが見えて、顔を上げた。私のように大きな声を上げることは無かったが、炭治郎もたくさん涙を流していた。
だけど、
その口元は僅かに弧を描いていた。
お通夜もお葬式もあっという間に終わって、ふたりだけの家族になってから数日が経っている。
あの人が居なくなった家は温度が低くなったように感じて、その度にあの人もお日様のように明るくてあたたかい人だったと思い出す。
ふたりだけで住むにはこの家は少し広い。寂しい。
そんな大事な事に失くしてから気付くなんて、私はなんて愚かなんだ。
これからだったのに。
あの人が私にそうしてくれたように、家族というもののぬくもりを感じさせてあげたかったのに。そうしなければいけなかったのに。
全部全部、これからだったのに。
そうだ、私が死んだ時もそうだった
あの前日、鬼を殲滅し終えたあかつきにはきっと祝言を挙げようね、と炭治郎と話していたところだった。
その翌日に私は、鬼に負わされた傷によって死んだんだ。
これから先の未来に希望を持った次の瞬間、その希望を粉々に打ち砕かれる。
まるで嘲笑うかのように踏み躙られて壊される。
どうしていつもこんな、まるで見計らったみたいに最悪のタイミングで絶望を叩きつけられるんだろう。
もしかしたら神様は本当は存在していて、私のことが大嫌いなのかも知れない。
ねえ神様、私は何か、あなたの機嫌を損ねるようなことをしてしまったんですか?駄目なところがあるならもっと頑張ります。沢山努力します。だからどうか、私の大事な人も不幸にさせるのはやめてください。
私のことが嫌いなら、苦しい思いをさせるのは私だけにしてください。誰かが悲しんだり辛い思いをするのはもう見たくないです。
どうかお願いします。
どうか....。