第6章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「中編」
その翌日の放課後。
みんなが部活に行ったあと、私はひとり帰る準備をいそいそとしていた。
炭治郎とも昨日は何もなく、普通の親子として過ごせたと思う。
しかも今朝、あの人から名物の温泉まんじゅうを買ってきてくれるとメールがあった。楽しみだな。夕方には帰ってくると言ってたから、そろそろこっちに着いてる頃だろうか。
そう考え込んでいると....
校内スピーカーからピンポンパンポーンと放送前の音楽が流れてきた。
《ーーー1年2組、竈門華さん。至急職員室、佐藤の所まで来てください。繰り返します。1年2組、竈門華さんーーー》
担任の名前だ。なんだろう。呼び出されるようなことをした覚えはないんだけど。
急いで荷物をまとめて職員室に行く。
職員室に入って少し奥にある担任のデスクまで早歩きで向かうと、担任は私の顔を見るなり慌てた様子でガタンと椅子から立ち上がった。
至急の呼び出しをしただけあって随分慌てた様子だ。
どうしたのだろう。
「失礼します。竈門です」
「ああ、竈門さん!」
「すみません先生、少し遅れました」
「竈門さん、いいですか、落ち着いて聞いてください」
そういう担任が一番落ち着きが無い。
一体どうしたんだろう。話、長いのかな。
今日はなるべく早く帰りたいのに。
帰りにスーパーに寄りたいんだから、手短にしてくださいね。
「何ですか?」
と聞くと少し躊躇いがちに口が開かれて、だけど、はっきりとした口調で告げられた。
「今、病院から電話がありました。お母様が事故に遭って運び込まれたそうです」
「こちらでお待ちください」
「は、い……」
病院に着いてすぐ、受付で名前を言うとICUの待合所に通された。
案内してくれた看護師さんは覚束ない足取りの私を気遣わしげに見ていたけれど、少しすれば自分の持ち場に戻って行った。
「……」
ドクンと波打つ心臓の音が耳のすぐ近くに聞こえる。寒くはないのに全身が震える。
怪我の程度はどのくらいなんだ。なんで、あの人が。どうして、こんな事に。
いま、私が慌てても仕方が無い。とにかく、落ち着かなければ。
そう思って深呼吸をしても、喉の奥まで震えてしまって余計に息が苦しくなるだけだった。