第6章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「中編」
家を飛び出した私は禰豆子ちゃんの家に上がりこんでいた。
何回も何回も禰豆子ちゃんに泣きついて、何回も何回も迷惑をかけてしまった。
そのまま何日か泊まらせてもらって、部屋を貸してもらって、とにかくいたれりつくせりだった。
それでも、毎日のように部屋に閉じこもって、炭治郎に言ってしまった台詞を後悔する。
でもそれと同時に、熱かった頭の中も少しずつ少しずつ冷静になっていった。
そして、何日か経ったあと。
「やっぱり私も一緒に家に行きましょうか…?」
何度もそう言ってくれた禰豆子ちゃんを押しとどめて、家に帰ってきた。
大丈夫。頭はスッキリしてる。心のもやもやも何処かへいった。今の私は大丈夫。これは大丈夫な私だ。
家のインターホンを鳴らすと、気まずそうな様子の炭治郎が私を出迎えてくれた。
「ただいま」
「ああ…おかえり」
居心地悪そうなのに、目はしっかりと合う。そういえばこんな正面から炭治郎の目を見たのは随分久し振りな気がするな。それだけ私が彼の顔を見ないようにしてきたということか。そうだ、炭治郎はこんなに綺麗な瞳をしてたんだ。勿体無い事をしてきたな。私はこの赫い瞳が大好きだったのに。
「……華」
「?」
「すまなかった」
「うん、私もごめんなさい。学校の用意とか宿題とか確認するから、しばらく部屋に居るね」
「そうか…わかった」
「ところで晩ご飯はどうする?」
「えっ……あ、ああ、そうだな、出前か何かとろうか」
「わかった。後でリビングに行くよ」
炭治郎、驚いてたな。無理もないよね、数日前にあんな別れ方をした相手がこんな風に振舞ってたらそりゃあ驚くよ。
私自身、こんな自分に一番驚いている。炭治郎と普通の会話が出来た。やれば出来るじゃない。
きっと、全部晒け出してしまったことで吹っ切れたんだな。
あの瞬間は確実にみっともなかったけど、でもその結果こうなれたのなら良かったのかもしれない。
娘になれる。今度こそ。
そう思うと、明日あの人が帰ってくるのが待ち遠しくさえ感じる。
やっと、あるべき家族の形になれるかもしれない。炭治郎は戸惑ってるみたいだったけど、大丈夫。私がこうなれたんだから、炭治郎もちゃんと父親になれるよ。
だからちゃんと、3人で、家族になろうね。