第6章 残酷な世界の中で。『竈門炭治郎』「中編」
言葉を詰まらせた炭治郎の体を押し返して自分から引き離す。その手はもう私を追っては来なかった。
「炭治郎はずるいよ。自分は他の人と結婚して、子供まで作って……それなのに私にはあなた以外見るなって言うの?そんな勝手な事ってないよ。生まれてから今日までのこの15年間、私がどんな思いで生きてきたと思ってるの…?」
心の奥底にしまい込んだものが引き摺り出されてしまう。
固く閉じた筈の蓋が緩んで、隙間からずっと溜め込んでいたどろどろとした嫌な気持ちが溢れ出てくる。
「私を愛してくれた人が、他の女性と所帯を持ったって知って私がどんな気持ちだったかわかる?それでも私は恋人になれなくても、炭治郎のそばにずっと居られるならそれでもいいって、だからちゃんと親子になろうって頑張ろうとしてるんだよ、!もう、これ以上私を苦しめないでよ…!!」
ずっと我慢していたのに。
何度そう思うことはあっても、絶対に口に出してはいけないのに。
もう、抑えが利かなかった。
「こんなに辛くて苦しい思いをするくらいならいっそ生まれて来なければよかった!!私以外の人と一緒になってる炭治郎なんて見たくなかった!!なんでっ…なんでよ!!どうして私以外の人と結婚なんてしたのよ!!裏切り者ッ!!!!」
言ってから、頭が重くなる。
喉が熱い。息が苦しい。耳鳴りも酷い。視界は涙で歪んでいる。
冷静にならなければいけないのに呼吸が整わない。みっともなく肩で息をするしか出来ない。
言ってしまった。口に出してはいけないことを。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
「……華、俺は、」
「っ」
「華!」
「ついてこないで!!」
何かを言おうとしている炭治郎を振り切り、感情に任せて家を飛び出した。
炭治郎の顔をまともに見られない。
あんな言い方をしたら炭治郎を傷付けるに決まってるのに。
最低だ、私。
頭に全身の血がのぼってしまっているのが分かる。
分かるけど、どうしようも出来ない。
逃げてしまった、炭治郎から。でも、だって、あんなの無理だよ。あんな事されたら、あんな事を言われたら、私だって彼が欲しくなる。欲しいのは彼だけなの。私だってずっとそうなんだよ。